夏休みにスリランカ行ってきました。
日本人の海外旅行先としてはまだまだ馴染みが薄いようですが、目的は東アジアリゾート建築の祖、Geoffrey Bawaの建築を体験することでした。
Bawaは1950年代から2000年代初頭まで主にスリランカで活躍した建築家ですが、その自然と一体化した建築の姿が近年ますます注目を集めるようになりました。
AMAN RESORTSをはじめとして、その後東アジア地域で行われた西洋資本の開発の多くはBawaの影響を受けていると言われ、理想的なアジアンリゾートイメージの礎を築いた建築家です。
スリランカ国内には無数のBawaリゾートが残され、その多くは現在でも人気を保ち続けていますが、まずはその中でも最高傑作のひとつとされる、"KANDALAMA HOTEL"からです。
KANDALAMA HOTELは、内陸部の湖のほとりに佇む全長1kmに及ぶ4階建ての大規模なリゾートホテルですが、その特徴の全ては上の写真に表現されています。
なんとホテルが自然に埋もれてしまっているのです。
湖の対岸から見た姿も下の写真の通りなのですが、周囲の緑に溶け込む擬態のような色彩をしているためか、ほとんど姿が見えません。
ホテルのロビーは、なんと外にあります。
スリランカの高級ホテルではポピュラーな(?)、開放的な雰囲気の屋外ロビーです。
ホテルの建物は天然の岩場に載せる形で建てられているのですが、むき出しにされた岩が来訪者に強烈な印象を与えています。
真っ黒に塗られた床が、岩と真っ白な柱を映し出して自然と人工のコントラストを強調しています。
岩場の床を平らに均して屋根をかけた、という雰囲気です。植物まで生えています・・・。
廊下は建物と岩の間を通り抜けてゆくように作られています。
日本の渓谷沿いの温泉旅館でも良く見られる光景ではありますが、スケールが非常に大きく、熱帯地方のせいかあまりにもワイルドなのが印象的です。
建物自体はグレーとモスグリーンに塗られ、植物と組み合わせることで、建物が目立たず自然の景観に溶け込むように作られています。
また屋上は全て緑化され、地面と地続きにされることで、建物と自然の境界は判然としないようにつくられています。
こちらも1階は地面に埋まり、2階が岩場とつながり、3階・4階はまた上の岩場と地続きとなっています。
壁面は各階のプランターや屋上からのつる植物で緑化され、全面的に覆われています。
ホテルの周囲はジャングルに取り囲まれているため、自然の緑と建物の緑がダイレクトにつながり、鳥などの動物や虫たちも建物まで自由に移動しています。
屋上は主に芝のような植物とサボテン類が植えられ、乾燥した屋上緑化の状態でも自然に繁茂しているようです。
森と同化していくように設計されたとおり、実際に森と人つながりとなっています。
これは、近年建築業界で世界的に流行している、屋上緑化・壁面緑化のはしりです。
屋上または壁面の緑化は、自然に溶け込む建築のイメージとしては理想的で、近年のみならず80年代の環境ブームの際にも流行したのですが、当初計画した緑が10年後も良好な状態で維持されている例はなかなか見たことが無く、イメージ倒れとなる場合がほとんどであるため、近年の流行も個人的には少し醒めた目で眺めていました。
しかしここでは、熱帯地域で植物の力が非常に強いためか、非常に珍しく当初イメージのとおりに緑に覆われています。
ただ放っておいてもつる植物が繁茂してしまうようですが、つるが絡みついた壁面は塗り替え等のメンテナンスはできなくなるため、コンクリートも朽ち果て、廃墟のようになりかけている部分もあります。
そのためKANDALAMA HOTELは、緑に覆われて素敵なホテルというイメージよりも、ジャングルと岩に覆われた非常にワイルドなホテルという印象を非常に強く受けます。
よくも悪くも、自然に近いのです。
植物に覆われた建物という理想のイメージと同時に、植物と付き合う困難が同時に実感され、自然と人間の付き合い方の難しさを考えさせられます。
"自然との共生"と言うのは簡単ですが、実現するには大変な苦労を伴うようです。
客室に入ると、何でもない木質系の部屋なのですが、3階にもかかわらず窓の外は緑でいっぱいです。
部屋の窓には、窓をきちんとカギまで閉めないとサルが入ってくるため、注意しろという警告シールが貼ってあります。
まさかそんなに近くまで来ないだろうと思っていると、実際に外のつる植物をつたって野生のサルが近くまで寄ってきて驚かされました。
洗面と浴室は大きな窓と鏡で、窓の外の緑が部屋いっぱいに感じられます。
また、朝は騒がしいほどの鳥の声で目を覚まします。
そしてKANDALAMA HOTELの最大のハイライトは、一番眺めの良い岩場の上に作られた、屋外プールです。
Bawa建築の特徴はプールにもあります。
Bawaが生み出し、世界のリゾートに取り入れられたという、"インフィニティ・プール"と呼ばれる手法で、エッジが見えないにように作られたプールの水面と、遠くの湖の水面が視覚上つながって見えます。
そのプール自体も確かに美しいのですが、圧巻なのはプールから眺める湖の景観でした・・・。
この眺めのためだけに、この場所に自然に溶け込むホテルを作ったと言っても過言ではありません。
はるか遠くの湖のほとりに何か動くものが・・・。どうやら牛たちがのろのろと水際を目指して歩いています。
遠くの空からはたくさんの水鳥がやってきては湖際に集まってきます。
なんとのどかな光景でしょうか。
夕方には水鳥やのんびり過ごす牛たちの傍らで人間も続々と集まり、水浴びや洗濯をしています・・・。
どうもここでは動物も人間もそれほど違う存在ではないようです。
KANDALAMA HOTELでは、湖やジャングルや岩石、また鳥や牛やサル等の動物など、あまりにも自然を近くに感じることができます。
大規模なリゾートホテルであるにもかかわらず、その自然の中に入り込んでいる感覚を得られる非常に珍しいホテルなのです。
KANADALAMA HOTEL自体の特徴でもありますが、全てのBawaの建築の特徴は、建物自体には特別な形や豪華な演出は何も無く素朴でありながら、最大の見所は周囲の自然そのものであるところです。
そのため、実際に訪れその周辺の自然を体験してみるまでBawa建築の良さは全く理解できませんでした。写真に写るタイプの良さではないのです。
Bawaの建物は、人の活動や自然を眺めるための額縁のような役割を果たしています。
そしてそれこそが人間の活動の器である建築の本来の役割です。
"人と建築と自然の調和"の姿とは、具体的にはこのような状態を指すのだろう、という実例を初めて目にしました。世界的に見ても貴重な建物です。
しかも"自然との調和"とは生易しいものではなく、自然の厳しさも同時に受け入れなくてはならないものだということも、リアルに実感されました・・・。
KANDALAMA HOTEL
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