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アメリカとメモリアル

またしてもワシントンに戻り、ナショナル・モールのメモリアル(記念碑)群についてです。やはりアメリカは見所の多い場所でした・・・。
ワシントンのホワイトハウスを中心としたエリアはナショナル・モールと呼ばれ、国家の歴史と権力を表現した建築物と名作ランドスケープデザインの宝庫です。
時代ごとに当時の最高のデザイン事務所が担当し、世界最高のメモリアルが作り上げられてきました。
建築史博物館と呼んでも良いかもしれません。
建築史、デザイン史に残る名作ばかりのため、私にとってはあまりにも興味深いエリアですが、その中でも今回は"メモリアル"に注目しました。
 
ナショナル・モールの中心に建つのは、あまりにも有名なワシントン記念塔です。
1884年に竣工した、エジプトのオベリスクを模したメモリアルですが、古代のオベリスクと比べると、あまりにも巨大です。
高さは169メートルに及び、当時世界で最も高い建造物でした。古代のオベリスクの高さは大きいもので30メートル前後で、比較するとあまりにもとんでもない大きさです。
中はエレベーターで昇れるようになっており、頂部は展望台となっています。
 

 
足元の広場は最近OLINというランドスケープデザイン事務所のデザインでリニューアルされており、こちらのほうが個人的には興味深いです。
 

 
次にワシントン記念塔をはさんでホワイトハウスの反対に鎮座するのが、こちらも言わずと知れたリンカーンメモリアルです。
ギリシャ神殿風の建物に巨大なリンカーンの像が鎮座するものです。建物も像もあまりに巨大なため、ハリボテのような作りかと思いきや、本当に巨大な石を積んで、もしくはぶ厚い石を貼り、積んであるように見せて作られています。単なる模倣の世界のものではありません。
 

 
これらのメモリアルを眺めていると、アメリカがあまりにも偉大な国家に感じてしまうのが自分でも恐ろしいところです。
アメリカは現在の世界の中心であるばかりか、エジプト、ギリシャ、ローマ帝国に匹敵する、もしくはそれらをしのぐ歴史上最も偉大な国家であることを表現しているようです。何だか末恐ろしいものを感じました。
小さな島国に住む我々日本人の感覚では全く縁の無い種類のものです。
一方でモダンデザインの名作メモリアルもたくさんあります。こちらは一変して権力の誇示とは正反対の表現です。
まずはベトナムメモリアル。
ベトナム戦争の戦没者の慰霊碑で、当時のコンペで斬新な学生の案が選ばれて実現されたということで、非常に話題になったランドスケープ作品です。デザインは中国系アメリカ人のMAYA LIN。
 

 
V字状に地面が掘られ、土留めに黒い御影石が貼られただけの非常にシンプルなデザインです。
通路を下っていくと、御影石に掘られた多くの戦没者名と、鏡のように磨かれた黒御影石に映る自分の姿と向き合うことになります。
 

 
V字の通路の軸線は、ワシントン記念塔に向けられて、慰霊碑から出て行く際には国家を意識させるというストーリーで、この上なくシンプルなランドスケープデザインながらも示唆に富んでいます。
 

 
メモリアルと言えば、最も新しいものではニューヨークの9.11メモリアルがあります。ワシントンではありませんが。
2本のタワーがあった場所を掘り下げて滝にしたデザインで、こちらもベトナム戦争のメモリアルと同様に、記念碑が"無い"ことを強調するデザインです。
 

 
記憶が新しすぎて、現地であまり写真を撮ることもできず、メモリアル自体についてあまり様々に書くことができません。
日本でも非常に人気のあるランドスケープアーキテクト、PETER WALKER AND PARTNERSの設計で、10年越しの議論の末にオープンしたばかりです。
 

 
個人的に最も見たかったメモリアルは、フランクリン・ルーズベルトメモリアルです。
ワシントン・ナショナルモールのはずれに位置するメモリアルで、公園を散策する道行に連れて銅像や石碑が現れ、大統領の人生と功績を振り返るストーリーとしてデザインされています。
見た目は単なる公園に見えます。
 

 
こちらは1970〜90年代に活躍した、LAWRENCE HALPRINというランドスケープアーキテクトの最後の作品です。
HALPRINは世界のランドスケープアーキテクトにあまりにも大きな影響を与えた結果、特に日本の公園デザインにはありとあらゆるところで彼の模倣が見られます。
モダンランドスケープデザインのルーツはどのようなものか、体験したみたかったのです。
 

 
公園を歩いてゆくと、巨大な花崗岩のぶ厚い壁が現れます。壁の間を抜けてゆくと、壁に囲われた"ルーム(部屋)"のような場所に入り、部屋の中では様々なデザインの滝が大きな水の音を立てています。
そして滝の袂には大統領の功績や名言が石に刻まれています。
 

 
屋外の博物館のような趣です。
 

 
次の"ルーム"には、また異なるデザインの滝と石碑が。
 

 
壁に用いられたごつごつした石も、ごろごろと転がされている石も一つ一つが巨大で、すさまじい重量感です。
 

 
あまりにもぶ厚い、花崗岩コブ出し仕上げの壁。
 

 
最後の"ルーム"は全面が大きな滝となっています。これほど巨大な石を用い、これほどの水量を流す滝は、世界でもなかなか見ることができません。
流れ落ちる水が石に当たって砕け、複雑で多様な落ち方で轟音を立てています。
 

 
日本庭園の瀑布の石組みからもインスピレーションを受けているようにも見えますが、石の大きさや荒々しさ、落ちる水の動きのダイナミックさは、HALPRINのデザインならではのものです。
 

 
HALPRINは自然界の岩の景観や滝や川の流れから受けたインスピレーションを取り入れたランドスケープデザインを多数残しました。
日本庭園を見慣れた私達から見ると、非常にしっくりと来るデザインコンセプトで、現在でも非常に人気があります。
日本の浮世絵からインスピレーションを受けた20世紀初頭の印象派などの西洋絵画が日本で今でも非常に人気があるのと似たような状況です。
メモリアルを通り抜けると、またしても最後に湖越しにワシントン記念塔と対面することになります。
 

 
良くも悪くも、これだけ偉大なメモリアル群を通じて、国家の一体感や歴史を大勢の国民が共有することができるのは、うらやましくも感じる一方でおそろしくもあり、非常に複雑な気持ちになりました。
しかし国家中枢の建築物ばかりでなくランドスケープデザインまでも含めた環境全体を、国内最高のデザイナーがデザインして常に当時最高のものをつくり上げてきて、しかも現在もつくり続けている姿勢には、日本が見習うべきものがあります。
近現代デザイン史の追体験としては、非常に興味深いものでした・・・。

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