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京都 円通寺

日本は庭園の国です。
これまで国内外で数々の庭やランドスケープを見てきましたが、日本国内で最も好きなお寺はどこかと問われれば、迷わず"円通寺"と答えます。
京都近辺を訪れる際は必ず立ち寄ります。

円通寺は京都北山からさらに北上した山(丘?)の上にあり、交通の便が極めて悪いため、一般的な観光客はあまり行かない場所のようですが、海外から日本を訪れたランドスケープ・アーキテクトは必ず訪れる"聖地"となっています。


"円通寺"の見どころは、"借景"。
ただそれだけです・・・。
しかしこれが他では見ることのできない、唯一無二の眺めなのです!

おそらく他にもまだ私が見たことの無い優れたお寺はたくさんあるのでしょうけども、ここは永遠に特別です。(借景の景観が壊されない限りですが)
"借景"とはご存知の通り、周囲の風景を庭園の眺めに取り込む庭園技法ですが、これほど見事に、まさに景色を"借りて"いる例は他にありません。
比叡山を借景するためだけに後水尾天皇がこの地を探し当てたそうです。

京都北山からさらに北上し、市街地を通り抜け山地にさしかかると、急にうっそうとした雰囲気になってきます。車で上るのもたいへんなすごい勾配の坂道を登り、ようやくたどり着くと、山門が現れます。よくある禅寺の門構えにも見えますが、敷石からは何やら特別な気合を感じます・・・。


建物に入り回廊を巡ると、借景の空間にたどり着きます。


座敷に座り、庭に正対すると、庭と杉木立の向こうに比叡山が望めます。
このお寺はこの場所にただただ静かに座して山を眺めるためだけに造られているようです・・・。


写真ではわかりにくいのですが、この杉木立の遥か彼方に比叡山が望めます。
座敷・縁側・庭・借景と、日本のどこにでもある見慣れた空間なのですが、実際には他のどこにも無い調和が実現しています。
とにかく座敷から比叡山まで続く"奥行き感"がものすごいのです。

室内は建具が全て取り払われているため、縁側の板張りの床と柱がフレームのように景色を切り取ります。
庭の境には低い生垣が設けられ、庭の外には杉が数本植えられているため、庭の境にも額縁が形成されています。
このダブルの額縁が複合して、比叡山までの奥行きを非常に強調しています。
左右対称でない比叡山の姿が実に美しく、しかもかなり大きく見える絶妙な距離のようです。

計算しつくされた絵画のような眺めです。

これは、立体的な絵画です。


杉木立の間隔は一定ではなく、しかも一本だけが生垣の手前に植えられているのが"にくい"ところです。
巧妙に対称・均等からずらされた、日本庭園独自の美意識です。


手前に目を向けると、苔が敷き詰められた庭に石を組むようにツツジが植えられています。
7・5・3の配置で、広い苔のカーペットの中に眺めを邪魔しない程度にシンプルで控えめに配置されています。


シンプルな濃い緑の塊に見える生垣は、実は数種類の樹種が組み合わされた凝ったものです。
庭の外はすぐ傍まで市街地が迫っているのですが、生垣が視線を遮り、庭と杉木立と比叡山しか見えないように計画されています。


この場所には、日本人の空間づくりの真髄があります。
建築・庭園・風景が等しい価値を持ち、全てが関連付けられて成立しているのです。

静かに座っていると、つくり手の"思い"が語りかけてきます。
比叡山の眺めが最も大事なもので、どうやら建築も庭園も引き立て役に過ぎません。だから庭にも建物にも装飾はいらず、自己主張しない、シンプルなものとなっています。しかし一方で建物の額縁と庭と木立がなければ、比叡山の眺めは平板で凡庸なものでしょう。
円通寺では、現代の計画ではほとんど見ることのできない、"建物"と"庭"と"風景"の理想的な関係が築かれています。
"調和"がこれほどの効果を与えるとは、驚くばかりです。

ここ数十年の間に円通寺周辺では宅地開発が続き、すぐ敷地の外にまで市街地が迫っています。景観条例ができたため、景観を台無しにするような大規模開発は避けられたようですが、いつ失われるとも限りません。すでに静かな周辺環境は失われてしまいました。

円通寺の借景がいつか失われる前に、ぜひ皆さんにも体験してもらいたいものです。
日本の庭園文化の粋が、この小さなお寺にはあります。

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