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松島の石積み護岸

なぜか石が好きです。
小石を拾って集めるのも好きですが、ランドスケープに関わるようになってから、石積みや敷石、彫刻などにも非常に興味を持つようになりました。

さて、今回は日本三景の一つ、松島を訪れました。
ここで、"美しい景観"とはどういったものなのか、またそれは人間が生み出すことのできるものなのか、考えさせられました。

都市計画や造園・土木などに関わっていると、"景観"という言葉を良く使います。
しかし、たとえば「東京の景観を良くしよう」と言った場合に、「景観」と言われてピンと来る方は、かなり少ないのではないかと思います。

松島で"良い景観"の具体的な事例に出会いました。
よその国ではマネのできない、日本人の造園・土木技術の粋です。

松島は日本三景と呼ばれるだけあって、松尾芭蕉の表現を持ち出すまでもなく、まぎれもない絶景でした。
水墨画の世界です。 
感じ方は人によって様々かもしれませんが、たしかに多様な日本の風景の中でも最も特徴的で美しい場所の一つでした。
松島の景観自体は、侵食作用などの自然の偉大な力によるもので、人間がつくれるようなものではないのですが、この地で人間が造った素晴らしいものに出会いました。


ここです(下の写真)。何の変哲もない海辺の道ですが、この写真のどこに、そのような"美しいもの"があるかわかるでしょうか?


答えは、石積み護岸(ゴガン)です。
滅多に気に留めるかたはいないでしょうけども。
この石積み護岸に非常に興味を覚えました。
単なる護岸と呼ぶにはあまりにも美しい石積みなのです。


護岸とは土木用語で、波浪・高潮・津波などから後背地を防護するために設けられるもので、通常はコンクリートでできています。
しかしここ松島では日本を代表する景勝地ということもあり、景観に配慮した護岸を設けることにしたようです。
造っている職人さんたちの姿に、しびれました。


まずは石自体が非常に美しい材料を使っています。
単なる石積み用の雑割石にしてはあまりにも味があります。
おそらく松島の特徴的な地形自体がほとんど岩でできているため、地元で取れる石を豊富に使えるのでしょう。
現代では珍しい、"環境と材料とデザインの一致"が完全な形で実現されています。
地元産の材料で全て設計するのは設計者の理想ですが、現代ではコスト面から滅多に実現できることではありません。


次に石の組み方。
基本ナナメに大小の雑割石を組み合わせたものですが、乱雑な形がぴったりとおさまったうえに、大きなものと小さなもの、白い石や黒い石が噛み合い、ランダムな美しさを形成しています。
一個一個の石は3次元の非常に乱雑な形なのですが、組みあがると完全に平らな面を形成しています。
大きな石だけが集まっても、同じ色の石だけが集まっても、同じ形の石ばかりでも、このようにはなりません。
適度に様々な色・形・大きさが混ざることが重要なのですが、やってみると非常に難しいのです。
城壁の石積みなどでも、美しい組み方の石積みとそうでもない石積みがあります。

このランダムな美しさというのは日本ならではの美意識で、職人さんたちは設計者がいなくても自分たちだけでこれを実現してしまうのですが、外国でこれを再現しようとすると非常に苦労することになります。

インカ帝国の石積みの精緻さやローマのレンガ積みもすごい迫力ですが、日本の石積みもすごいです。


作業は重機を使って石を組んでいるのですが、この先端でつかむ大きな機械の手があまりにも繊細に動きます。
動き自体は「回転」と「掴む」のみで単純なのですが、操作する動きが非常に繊細なのです。
ロボットアームとでも呼んだほうが良さそうです。

まず、すさまじい数用意してある様々な形の割石の中から、次の隙間に合う形の石を選び取り、3次元に回転させ、平らな面を上にして設置位置にひとまず置きます。


置く場所では職人3人が待ち構えていて、1人が置く場所と石の向きを指示し、その間に職人2人が隙間に小さめの石を積め、位置を安定させます。
置いた後は、向きを合わせるために機械の手がちょいちょいと石に触れ、微妙に回転させたり押したり引いたりします。
まるで人間の指が小さな小石を置くときと同様な手つきを繊細に繰り返します。


場所が定まると、上からどしん、どしんと叩き付け、しっかりと固定させます。
その間、機械の手を動かす指示は設置場所にいる職人が出し、指示の通りに重機に乗った職人が操作し、もう一人が微調整と石を積めたりといった作業をしているのですが、この4人の連携プレーが恐ろしく統一され、実に見事に巨大な石をぴったりとはめてゆきます。

その作業があまりにも見事で、見とれること1時間ほど。
1時間ほどで設置できる石は2個くらいでしょうか。
護岸は数百メートル続くので、気の遠くなるような作業です。
しかし膨大な手間とお金をかけているだけあって、出来上がった護岸は素晴らしい質感と景観です。
イサム・ノグチのアート作品などとほとんど変わらない仕上がりに私には見えます。


職人さんたち。しびれます。
毎日この作業を繰り返しているためか、なんてことないようですが。


できてしまうと、なんと言うことのない、しかしあまりにも自然で美しい景観です。
これほどの手間ヒマをかけないと、このような美しい景観が出来上がらない、ということにも気の遠くなる思いです。

素晴らしすぎて、自分も職人さんになりたい、とよく思ってしまうのですが、おそらく自分はこのような職人さんたちの技を生かすための設計を行うのが使命なのでしょう。

いつかこのような日本独自の技術を使った環境を大規模に実現したいものです。









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