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グラナダのホテル

今回はグラナダで宿泊したホテル”Palacio de Santa Ines”についてです。
特にラグジュアリー感や特別なもてなしがあったわけではないのですが、ここには人が住まいに求める根源的な要素の全てがあったと感じたので、特に取り上げたいと思います。


アルハンブラ宮殿の足元、アルバイシン地区(世界遺産の旧市街)の路地の奥にたたずむ、何でもなさそうに見える建物がホテル”Palacio de Santa Ines”です。


建物は16世紀に建てられたという3階建の邸宅をホテルに改造したもので、中央の吹き抜けの周りに客室が5部屋ほどあるばかりの小さな建物です。

吹き抜け上部のトップライトから、光がまさに降り注ぎます。


部屋の中は普通なのですが、この吹き抜け空間があまりにも居心地が良いのです。


吹き抜け空間の周りのテラスは、機能としては、非常に狭い"階段"と"廊下"にすぎないのですが、素晴らしく居心地の良い、立体的なリビング空間と化しています。
廊下、ギャラリー、リビングルーム、採光と通風施設といった機能を同時に果たしています。
材料はざっくりとした風合いの木材と漆喰とテラコッタタイルばかりです。

外部空間を設計する際の確実に居心地の良くなる場所をつくるセオリーとして、
・壁を背に座る(または壁に沿って)
・適度に囲われた場所
・前方に広々とした眺めと明るい光
・空間全体が見渡せる
・適度な広さ(広すぎない)
・材料の暖かさ
・アートなど、眺める対象物(アイキャッチ)
などがあると常々考えているのですが、ここでは吹き抜けに面した廊下のベンチやソファーがまさに上記の条件を完全に満たしています。
実際に座るとお茶でも飲みたい気分になります。
居心地の良い喫茶店なども同じで、外部でも内部でも、人種や文化を問わず同様の法則が当てはまる、と個人的には考えています。


個室内の吹き抜けに面したベッドルームの前室。
ここも幅1m程のすごい狭さですが、読書や日向ぼっこには最適そうです。
家具は全て素朴な味わいのアンティークです。


階段にも立体的な工夫が凝らされています。


下は回り込んで上は最短距離を上がる。
上下を通る人がお互いに眺められるのも楽しい、"見せる"階段です。


しかも洞窟をぬけるような小さな階段室の出入り口。
行く先には光があふれます。


夜。
廊下ごとに一つづつ天井を照らす間接照明があるばかりです。


すばらしい静けさと落ち着き。


壁画はルネサンスの画家Giulio Romanoによるものだそうです。


柱とテラスの装飾のディテール。
なんと気持ちの良い空間でしょうか。
本能で住み着きたくなるような場所で、一日中ずっとここで過ごしたくなります。
この建物内部の特別な居心地の良さは、イスラムの伝統が混ざっていることが影響しているのかもしれません。


ここでは、不思議なことに訪れた誰もが"自分の場所"だと感じられるのではないのでしょうか?
このような要素が、住宅において最も大事なことだと考えています。
様々な住宅が街にはあふれ、機能や豪華な設備や材料を盛り込むことは予算さえ許せばいくらでも簡単なことですが、”住み着きたくなるような場所”というのは、いくらお金があっても最も実現が難しい、しかし最も重要な要素なのです。
非常に去りがたいホテルでした。


Hotel Palacio de Santa Ines

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