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アルハンブラ宮殿

 さて、ようやく今回の旅の目的であるアルハンブラ宮殿です。いつか絶対に行かねばならない、と思っていた場所です。

ここはスペイン屈指の世界遺産であり、現存するイスラム建築の最高傑作、とも呼ばれています。しかしそのわりには規模が強烈に大きいわけではなく、装飾の緻密さは見ごたえがあるものの、建築そのものは西洋の建築で見られるような圧倒的な壮大さ・壮麗さなどは感じさせません。宮殿自体は大きいのですが、小さな空間と庭の連なりで作られています。
その魅力は、庭園そのものや"建築と庭園の関係"に現れ、建物内外のあらゆる場所にさまざまな形で現れる、"水"の表現に集約されています。
しかもその豊かさは、イスラムの伝統にしたがって外部には全く表現されず、閉ざされた中庭を中心として内部空間のみに集中的に表現されています。
壮大・壮麗な宮殿というよりも、生活空間に近い、"豊かさ"の極致のようなものを感じました。

また、歴史に残るランドスケープアーキテクトや建築家の多くがここを訪れ、影響を受けたのだ、ということがアルハンブラ宮殿のデザインを見ると明らかにわかり、実に感慨深いものがありました。

あまりにも有名な場所なので、歴史や沿革についてはこちらでどうぞ。
グラナダの街の丘の上にアルハンブラ宮殿はそびえます。背後に見えるのはシアラネバダ山脈。
宮殿内のあらゆる水は、はるかシアラネバダ山脈の雪解け水が引かれて用いられ、あらゆる噴水は高低差を利用して噴出させたものです。。


丘のふもとの城門から城壁を見上げます。赤い壁の色が植物や空の色を引き立てています。アルハンブラとはアラビア語で"赤い城砦"を意味するそうです。


1時間近く坂道を登り続け、丘の上に出てもさらに歩き続けへとへとになった頃、ようやくたどりついた宮殿の入口は、非常に狭い通路にモッコウバラの天蓋。
巨大な宮殿にしては裏口のような狭さですが、入口上部の細かな装飾に唯一奥の華麗な空間の予兆が・・・。


メインのパティオの前庭かつ入口の門。中庭なのですが、ここが通常の建物で言うところのファサード(教会の正面など)のようになっています。大理石の床と水盤が、主庭のアラヤネスのパティオのデザインを暗示しています。


狭く曲がりくねった通路を抜けるとようやく光の向こうにアラヤネスのパティオ(主庭)が現れます。


壁面はすさまじい密度の装飾で埋め尽くされています。


有名なアラヤネスのパティオ。あまりにも完璧な庭園デザインです。
床の大理石の白い輝きと、小さな水音、そして水鏡に映る列柱の美しさが表現のほとんど全てです。息を呑むほどの完全な美しさです。


庭自体には何の形も無い極めてミニマムなデザインですが、水盤が周囲を映し出すことでのみ美しさが生まれています。かつては両サイドの刈り込みは様々な樹木が植えられていたようですが、現在は単一の刈り込みのみとされたことで、さらに庭のミニマムさが強調され美しくなったようです。


大きな水池のみでなく、刈り込みの周囲もぐるりと細ーい水路がめぐります。


大理石の白い輝きが、まぶしいほどです。


まさに単純にして完璧なデザインの庭です。脱帽。


宮殿の窓からはアルバイシン地区(旧市街)が見渡せます。


宮殿を巡ると様々なスタイルの庭が現れます。
そして宮殿内の全ての部屋はパティオの周りを取り囲んで配置されています。全ての部屋はいずれかの庭に必ず面しているということです。
また、全ての庭は異なるデザインがされていますが、水盤だけは必ず中心にあります。


このパティオは宮殿内では唯一樹木がいっぱいで、回廊で休むと非常に穏やかな気持ちになれます。アラヤネスのパティオの厳しいミニマムさとは正反対のパティオです。オレンジの木と水盤が必ず配置される、イスラム世界の楽園の表現です。


宮殿の外のパルタル庭園。アラヤネスのパティオと全く同じデザインの庭ですが、中庭でなく完全な屋外のためか、より水盤に輝く光が鮮烈で、完全な鏡面となっています。


パルタル庭園逆側を望む。植物を映し込んでも美しい・・・。


壁面のレンガのテクスチャとバラ。庭園内はいたるところに様々種類のバラが植えられています。


アルバイシン地区(旧市街)から見た夜景。おぼろ月夜をバックに物語の中のような光景でした。


ここは訪れてみると私にとっては実に圧巻で、ほぼ一日中駆け足で見て回っても全てを見きれなかったほど魅力の詰まった場所でしたが、これまでこのブログで取り上げた場所の中でも特別に写真と文章で伝えるのが難しい場所のようです。ランドスケープの世界は、優れた場所ほど伝えるのが難しくなります。この魅力のわずかな断片でも感じ取っていただけたら幸いです。

アルハンブラ宮殿の魅力は、建物を巡ると次々に現れる様々な庭園と、水音と水盤の輝き、建物と庭園の関係の多様さ、装飾細部の驚異的な彫刻などに現れています。
回遊性の楽しさ、水、ディテールは写真にはほとんど表現されていません。ただの良い雰囲気の庭と壁の写真しか撮れません。
訪れることでしかこの場所の強烈な魅力は知ることができません。

このような種類の魅力はどこかで感じたことがある・・・と現地で強く感じたのですが、それは日本の伝統的寺院と同様の魅力でした。
日本の寺院の魅力も、主には建物の姿かたちやスケールの壮大さなどではなく、廊下を巡って様々な庭を眺める楽しさや、建物と庭との関係、そして障子や棚などに現れるかなり細かな細工に集中しています。
こんなに遥か離れた全く異なる文化圏で日本建築と同様の感覚を覚えるとは、かなり驚きました。庭園を大事に思う気持ちが、日本人とかなり近いようです。

評判に違わず、たしかにイスラム建築の最高傑作、かつ世界最高峰の庭園でした。必見、です。





 

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