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横浜港大さん橋国際客船ターミナル

歴史モノが続いたので息抜きに現代建築です。
職業柄多くの建築物を見ますが、好きな現代建築、というのはめったにありません。
建築もたくさん見ていくと既視感のある作品が多かったり、単にごたごたと派手な作品などでは全く驚かなくなります。
そのなかでも、横浜に行く度に必ず行ってしまう建築(?)があります。
"横浜港大さん橋国際客船ターミナル"です。
設計はあまり一般には馴染みのない事務所かと思いますが、FOA(Foreign Office Architects)です。

横浜港大さん橋国際客船ターミナルは10年近く前に国際コンペが催され、その最優秀作品が実現したものです。
FOAは当時全くの無名で、この作品が国際的なデビュー作となりました。プランがあまりにも革新的だったので数々の著名建築家を凌いで最優秀案に選ばれたのですが、構造的・予算的に実現が可能なのか疑問視されてもいたため、建築界ではかなりの注目を集めました。

これがコンペ勝利時のパースです。
金属的な輝きを持つ空間が内外に有機的につながるイメージで、かなりクールです。


さて実際にできたものを見るとこれなのですが・・・。 


実際の設計段階でコンペ時に想定していた構造方法では無理ということがわかり、全く異なる構造方法となりました。また、コンペ時の全体の金属的な仕上げがぬるっとつながってゆくようなイメージはウッドデッキと芝生に変わってしまいました。
結局、
・初期案のイメージとぜんぜん違う
・構造方法も全く変わり、しかもごつくて美しくない
・コストが想定よりも大幅にかかった
などの点から完成まで紆余曲折があり設計者はかなりの批判にさらされ、設計者と言えるのかという話まで出て建築界ではさんざんな評価だったと記憶しています。


しかし、コンペや建築界の評価など関係なく実際にできたものを訪れてみると、
・横浜随一の観光名所となってしまった
・とにかく屋上の芝生とウッドデッキと港の眺めがあまりにも気持ち良い
・中は洞窟みたい
・メインホールは単なる体育館のよう

これは建築ではなく、ランドスケープや公園・洞窟と捉えたほうが良いものが現れました。
海に数100メートルも突き出した形の公園ができてしまったのです。
これはかつてどこにも無かったものです。



デザインも、
・地形をつくること
・手すり
・照明
・サイン
などの要素に集約されており、建築と言うよりもランドスケープのデザイン要素と全く変わりません。壁や天井など従来の建築の要素が全く無くなっているのです。
鉄骨と木で地形を作ろうとしているため、かなり歪んだりねじれたり施工者の苦労のあとがあちこちに見られますが、とにかくものすごいものができています。
"壁や天井や柱の無い流動的な建築空間"というのはこの10年ほど世界中の最先端の建築が追い求め続けてきた空間像なのですが、その新しい空間が客船ターミナルという機能や大都市の海辺の立地とうまく結びついて成功した稀有な例です。


単に公園をつくろうとしても、建築をつくろうとしても決してできないものがここにはあります。世界的に見ても非常に珍しいものです。
何よりも人が大勢集まる公共スペースになったというのは何よりの成功の証です。

しかし建築界の評価が思わしくなかったためか、日本ではもとより海外でも設計者はその後あまり良い仕事に恵まれていないようではありますが・・・。

このようなケースはどこかであったような気がする・・・と思ったら、あのオーストラリアのシンボル、"シドニーオペラハウス"が似たような過程を経て実現していました。コンペで一等になったが構造とコストの問題で大幅に内容が変わり、揉め続け、しかし完成すると歴史に残る名作となった・・・。オペラハウスの建築家ヨルン・ウッツォンは建設途中で解雇までされました。
建築はデザイン的な要素ばかりでなく、構造・設備・コストや政治など様々な人々の思惑がからみ、さまざまな問題や揉め事も生じやすいのですが、最終的にできたものがどのような効果があり、また愛される建物になったのか、ということが設計者としての最終的な評価であると思います。



FOA

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

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