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Villa Hadriana

今回は再びイタリアに戻って、ローマ近郊Tivoliにある"ヴィラ・ハドリアーナ"についてです。
以前のエントリにも登場した"エステ荘"のすぐそばにあり、Tivoliでは2世紀と16世紀の為政者の対照的なヴィラを体験することができます。

"Villa Hadriana"は、その名のとおりローマ皇帝ハドリアヌス帝の別荘です。別荘と言っても都市と言えるほどの壮大な規模のもので、当時のローマの3/4の面積を持っていたとも言われています。"ギリシア劇場"、"海の劇場"、"ギリシア語図書館"、"ホスピタリア"、"宮殿"、"大浴場"などの建築群で、現在のテーマパークのように、地中海・エジプト・ギリシアなど自らが支配した世界各地の縮図を建築的に作り上げたもののようです。

ここはアテネのアクロポリスと並ぶ建築関係者の聖地でもあります。
古くは18世紀に版画家・建築家であるピラネージが銅版画を多数描き、現代でもコルビュジェにはじまり、日本でも磯崎新や安藤忠雄などがインスピレーションの源としました。
この場所ではもはや機能も目的も何も無く、ただただ分厚い壁と石の柱が林立する。これこそが建築の純粋な姿です。

しかし、私がここで感じたのは建築と植物の関わりの理想像であり、ランドスケープデザインの原型のようなものです。
まず、敷地内に入ってゆくとイタリアサイプレスの並木が延々と続きます。日本の山岳寺院の杉並木の参道にもそっくりですが、数百メートルもの直線を歩きます。


 辿りついた巨大な門を抜けると、広大な池が広がります。



どこまでも伸びる巨大な壁。



敷地中央付近の100m以上の長さの巨大な池"ポイキレ"。かつては池の周りを列柱廊が巡る壮大な空間だったようです。



周囲はかつての建築群が朽ち果てて植物に覆われ、現在では公園やオリーブ畑のようです。



かつての"ギリシア劇場"もすっかり植物に覆われ、緑の構造物のようです。



瞑想や催しのためにつくられたといわれる"海の劇場"。
ドーナツ型の池の真ん中が舞台で池の周りを回廊が巡ります。舞台を池越しに回廊から眺めたのか、単に瞑想のためだけにつくられたのか・・・。地中海の島を表現しているとも言われています。



朽ち果てた建物。

"養魚池"の周囲を巡る半地下のトンネル状の回廊。
列柱、トンネル、広間、ドームなど、開放と閉鎖を繰り返しながら、様々な建築的体験が次々に繰り広げられます。


"カノプス"と呼ばれる池。"カノプス"とはエジプトの港の名で、ナイル川をシンボライズしていると言われているそうです。細長い池の周りをギリシア彫刻の模像がとり囲み、池の端には"セラピス神殿"が建ち、そこから池を眺めながら食事をしたそうです。



静かな水面が彫像と列柱を映し出し、この別荘で最も美しい光景が広がります。



彫像を映す水面。


建築的な見所の宝庫です。





私にとっては建造当時の姿よりも、建物が朽ち果て、植物に覆われ、水面が広がる現在の遺跡の姿こそが、構造物と植物と水が調和した理想の環境に見えます。建設当時は現在の姿とは全く異なり、圧倒的に贅沢な建物の存在が自然を圧倒していたことでしょう。

現在の社会ではほとんどの建築家は建物しか建てませんし、造園家は植物のことしか考えない場合が多く、どちらかが突出した環境がほとんどで、建築とランドスケープが調和した場所というのはほとんど見られません。それを考えている人も極めて少ないようです。
しかし、本来環境をつくることに専門の垣根は無く、建築材料や土・植物・水など地球上のあらゆる要素を用いて一つの環境を作り上げ、調和を計画することが本来の人間のための環境の姿のはずです。

ヴィラ・ハドリアーナをはじめとして古来世界の各地で、為政者による強大な権力を背景にして当時のあらゆる技術と職能と材料を用いた壮大な環境がつくられてきました。現在では絶対的な権力というものは存在しないためこのような壮大なスケールで実現する機会はなかなかないとしても、もっと小さな規模ならば、現在でもイメージさえできればあらゆる要素が調和した総合的な環境を作り上げられるはずです。
そのような環境全体を計画できる人材になることが、自分の最も大きな目的です。


"Villa Hadriana"と"Villa d'este"は今後も多くの芸術家が創作の源とするであろう永遠の名作であり、自分にとってもローマに来るたびに訪れ続けるであろう場所です。
ローマから30kmほどで日帰り旅行にちょうど良い場所なので、ローマを訪れた際はぜひ立ち寄ってみてください。

※伝説の写真集「磯崎新+篠山紀信 建築行脚シリーズ6」がヴィラ・ハドリアーナの特集で、極めて美しい写真を見ることができます。絶版なので図書館にてどうぞ。

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