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ルイス・バラガンの家

 さて、ようやくルイス・バラガンです。

ルイス・バラガンはメキシコを代表し、また世界的に高名な20世紀の建築家です。1930〜1970年代にかけて活躍し(と言っても作品は数えるほどしかありませんが)、1980年には建築家としては最高の栄耀、プリッツカー賞も受賞しています。
建築家として最も特異なのは、住宅ばかりを作り続けて世界的な建築家になったこと、また建築とランドスケープの設計を生涯続け、建築家であると同時に造園家・都市計画家でもあったことです。
まずは訪れたいくつかの代表作の中からバラガン邸を取り上げます。
バラガン邸はもちろんルイス・バラガンの自邸と仕事場なのですが、なんとユネスコの世界遺産に登録されています。歴史的建造物や自然遺産など、世界各地に世界遺産は数多くあれど、20世紀につくられた現代建築が世界遺産となった事例はまだ極めて珍しいです。しかも住宅作品では世界でもまだ2,3しか登録されておらず、20世紀の世界的代表作と言える住宅の一つです。
(写真は外部しか撮影が許されていないので、内部の写真は引用です。)
メキシコシティーの何の変哲も無い中流程度の住宅街にバラガン邸はたたずんでいますが、外観は何の変哲も無く周囲の住宅とまるで違わないため、それが20世紀の名作住宅だと気づく人はまずいません。どれかわかるでしょうか?奥のピンク色の建物ではなくグレーの目立たない建物です。
さて、ドアを開け中に入り薄暗いアプローチを抜けると、まずはショッキングピンク色の階段室へと出ます。白一色だった20世紀の現代建築に鮮やかなメキシコ独自の色彩を持ち込んだことはバラガンの最も大きな特徴の一つです。
鮮烈なピンク色なのですが、上から降り注ぐ間接光に照らされるためか、ザラザラとした壁のテクスチャーのせいか、不思議と穏やかで優しい色に感じます。階段の上からの光は黄金のパネルに反射して階段室をやさしく照らし、さらにピンクの壁が光を反射して白い階段をピンクに染めています。壁に色をつけるというよりは、光に色をつけようとしているように感じます。
階段室からこの家の最大の見所であるリビングルームに出ると、大きな窓からうっそうと茂った庭の木々が目に入ります。ガラスがあまりに大きく窓枠もほとんど無いためか、窓は開かないのにリビングと庭の関係が非常に近く感じます。
窓際にはテーブルがおいてありますが、壁にかけられたヨーゼフ・アルバースの絵が大きな空間の中に人の居場所をつくり出しています。
ここで居心地の良さを生み出しているのは、明るい木漏れ日、ぶ厚い無垢の木の板や地元産の黒い溶岩、ざらざらとした荒いテクスチャの壁、ざっくりとしたファブリック、そして本や置物と壁面の現代アートです。屋外には小さいながら水盤とささやかな噴水が水音をたて、小鳥が水を飲みに訪れます。
徹底的にミニマルなデザインでありながらも現代建築にありがちな研ぎ澄まされた緊張感や冷たさは微塵も無く、大都市の喧騒にありながらもこの家の中では平和な時間が流れています。
人が心安らかに過ごすための全ての要素がここにはあります。
また、このような静かな幸福感をもたらす要素は、世界の建築史に残る名作住宅と呼ばれる多くの建物や、最も居心地の良いリゾートホテルなどにも共通な要素なのです。
バラガンは、面白いコンセプトや形のデザインをするわけでもなく、しかも高名な建築家にしては珍しく自分の作品の意図をあまり語らない人でしたが、自分が求める住宅の最高のクオリティは"静けさ"だと語っています。
この言葉に建築の目的の全てが集約されています。
人間が住まいに求めるものは、時代や場所や人種が違ってもそれほど違わないシンプルなものなのではないでしょうか。
Barragan Foundation

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