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蘇州の世界遺産庭園群1ー拙政園 

蘇州は古来水の都であると共に、庭園の都です。

市内にはたくさんの中国古典様式庭園が残されており、中でも「拙政園」・「獅子林」・「留園」・「滄浪亭」という蘇州四大庭園は世界遺産にも選定され、

中でも拙政園は中国四大庭園の首位とも言われています。

ランドスケープデザイン・造園を生業とする私にとっては、天国のようなエリアでした。

まずは最も大規模な拙政園からです。

 

ちなみに中国四大名園とは、拙政園のほかに、北京の頤和園(いわえん)、河北承の避暑山庄、蘇州の留園。

蘇州からは2つも選ばれていることからも、庭園の都蘇州のレベルの高さがうかがえます。

 

日本でも蘇州といえば観光地としては有名ですが、庭園の専門情報はあまり国内に存在しないため、

拙政園にもそれほど期待していませんでした。

しかしまたしても想像を裏切る、ものすごい庭園だったのです。

 

 

場所は蘇州の中心部の観光エリアにあり、蘇州博物館、拙政園、その周りの歴史的町並みのショッピング街が連続するエリアです。

 

車を降りて、エリアに入っていくともうすでに、すごい場所のオーラがにじみ出ています。

明らかにこの先にものすごい何かがある、という予感。

 

 

それもそのはず、一帯はかつてこのエリアの政府があった場所で、明代に拙政園にあたる住宅と庭園が造られてから、

持ち主と用途を変え、増改築を繰り返し、歴史を重ねてきました。

近代の太平天国の乱の時代には、革命政府もこの地に作られました。

 

観光地として、また現代建築として有名な蘇州博物館も、元政府の敷地を使って使って作られたそうです。

しかもその設計者である、ルーブル美術館のリノベーションで世界的に有名なI.M.Peiは、蘇州政府トップの末裔だそうです。

 

さらにPeiの家は隣のもう一つの世界遺産庭園、獅子林の所有者でもあったそうです。

なにかものすごい歴史というか、家柄というか、日本のスケールでは考えられない華麗なる歴史と一族のエリアです。

 

蘇州博物館については、建築雑誌等で見ていてずっと来たかった場所だったのですが、

世界遺産庭園群と蘇州の街並みの歴史とすごみを前にすると、特に書くべきことはなくなりました。

どんな現代建築も、歴史遺産には全くかないません。

 

 

ようやく拙政園の入口です。意外とあっさりした印象の入口。

 

 

入ってみると、これが中国を代表する世界遺産の庭園?

と思うほど、特にこれといった見どころがあるわけではなく、拍子抜けするほど、見慣れた中国庭園の印象。

 

 

季節がら水と紅葉がきれいですが、どこに特徴があるのか・・・。

 

 

しかし庭園を歩き回るうちに、徐々にそのすごさが体感されてきました。

 

 

庭園は大きな池の周りにたくさんの建物が点在していて、その間は回廊でつながれています。

たくさんの回廊によって庭はさらに大小の庭に分節されて、全て特徴の異なる多様な庭ができています。

この「回廊」が独特なのです。

 

 

回廊をいくら歩いても、いくつ壁を抜けても、歩いても歩いても、その先にまだ庭があります。

 

 

しかも次々に異なる景色と体験が、これでもか、とばかりに繰り返されます。

この庭は、「見る」ものではなく、「体感する」もののようです。

 

 

歩いているうちに、だんだん理解できてきました。

これは、すごい。

世界のどこにもない庭です。

 

 

しかし何かこれと言って、ここだけは写真に撮るべき場所だ、という焦点のような場所があるわけではなく、

庭園を回廊伝いに巡って歩き回る、その体験の多様さに見どころがありました。

 

 

回廊を巡り、ジグザグに歩き、壁を通り抜け、橋を渡り、坂道を上り、山の上に出て、また下り、いつのまにか亭に入り、

水辺に出て、折れ曲がり、また巡る。

それが延々と繰り返されます。

 

 

いつ終わるのかわからない。

通り抜けた先にはまた全く異なる世界がある。

まだ先に何かあるのか?次は何が待っているのか?

 

 

延々と続く快楽のような体験です。

 

 

帰れなくなりました。

迷宮状の庭園のため、迷って帰れないのもありますが、帰りたくなくて、自らどんどんさまよい込んでしまいます。

一人旅でない方は要注意です。

 

 

全く様式は異なりますが、スペインのアルハンブラ宮殿の迷宮性にも似ています。

回廊と庭と建築の連続という意味では、空間構成が非常に近いのかもしれません。

 

 

遠景のほうが、その魅力が伝わりやすいかもしれません。

主に中国国内の観光客ですさまじい人手ですが、おかげで何か山水画の長い絵巻物に大勢の人が入り込んだような写真が撮れます。

 

 

見どころは、もちろんあります。

面白い形の東屋や、装飾のディテール、遠景に見はらす塔、紅葉や花、ものすごい形の奇石、橋など。

 

 

しかしどれもどこか粗く大味な印象。

日本の枯山水庭園や歴史的建造物のような研ぎ澄まされた美しさとは全くことなります。

どこも荒々しく、乱雑で、劣化し汚れていて、細部まで配慮が行き届いていない印象。

 

 

回廊から池越しにはるかに望む塔の眺めが、拙政園のハイライトです。

 

 

山の上から、東屋と回廊を望む。

 

 

巻物の山水画のような眺めです。

 

 

 

4方向に円形の窓を持つ、珍しいデザインです。

 

円形の窓に切り取られた風景が、非常に印象的です。

 

 

建物と回廊が水の上に密集するエリア。

 

 

水面の上にいくつもの橋がかかり、その周囲に回廊が巡り、東屋がいくつもあります。

 

 

回廊はいつの間にか建物の中に入り、また出てきて橋になり、いつの間にか東屋になります。

 

 

小さな東屋の中は居心地の良い小さな空間で、お茶でも飲んだり詩歌を楽しんだりしたのでしょうか。

 

 

東屋を通り過ぎるとまた回廊が巡ります。

 

 

様々な格子のディテールが美しい・・・。

これは花がモチーフでしょうか。

 

 

拙政園の中心的な施設、遠香堂。

庭園に案内されるとまず訪れる、ビジターハウスのように使われていたそうです。

 

 

内部は4周が見渡せるように前面ガラス張りです。

 

 

拙政園には、不思議なことに、「ここが見どころだ!」という絶対的な場所はないのですが、

体験したことのない、理解のできない何かがあります。

 

著名な庭や建築物には、普通写真を撮るべき代表的な場所が必ずあるはずなのですが、拙政園にはそれもありません。

写真にとっても、それほど映えません。

 

そもそも中国庭園にはあまり焦点となるような場所がないのかもしれません。

そのため、写真映えはあまりせず、これといった特徴や全体像もつかみにくいのです。

 

それなのに、体験の全体としては、非常に面白く、来訪者を全く飽きさせずに延々と歩き回らせてしまうのです。

四季折々訪れたら、どれほど楽しいでしょうか。

 

訪れた季節はちょうど秋で、紅葉が見ごろでした。夏には池が大きな蓮で覆われるようです。

 

 

山の上にも特徴的な東屋が。

 

 

額縁から庭を眺める、というのも中国で繰り返し用いられる代表的な手法です。

 

 

 

模型写真で見るほうが、全体像がわかりやすいかもしれません。

下の写真が全景です。

拙政園は、「回廊」と「壁」の庭です。

大きな池の周りに建物が点在し、回廊で結ばれています。

全体は回廊と壁によって大きく3つの部分に分かれ、さらに複雑な回廊によって大小たくさんの庭に分節されています。

 

 

回廊がめちゃめちゃに曲がりくねって続いている様子がよくわかります。

一番複雑でおもしろいエリアです。

 

 

回廊は自由に曲がりくねってジグザグ・アップダウンを繰り返し、枝分かれして迷宮状になっています。

もはや必要のための回廊ではなく、無限に遊ぶための回廊です。

 

 

建物が密集するエリアにも、内外に小さな庭が点々とあり、回廊が続いています。

 

 

庭園に戻ります。

回廊は曲がりくねり、細かなアップダウンも繰り返すため、様々なレベルから景色を眺められます。

 

 

拙政園の終盤は、かつての住宅部分につくられた蘇州園林博物館です。

このエリアは資料館の部分のため、現代に作り変えられた部分のようです。

どこまでが新しく作られた部分なのか、昔からある古い部分なのか、もはやよくわかりません。

古来増改築を延々と繰り返してできた庭園のため、オリジナル部分はどこなのか問いかけること自体、意味がないのかもしれません。

 

 

どうしてこのようなことがありうるのか。

パラレルワールドのような分かれ道。

もはや機能ではなく、究極の遊びの領域です。

そもそも庭園全体が、「遊び」のためだけに作られています。

 

 

 

庭園から出てくると、地中深い迷宮から現実世界にやっと戻ってきたような安堵感を強烈に感じます。

 

 

 

 

 

思い返してみても、ものすごい庭園でした。必見です。

 

お隣の蘇州博物館に隣接した、太平天国の乱の際の臨時政府のエリアも、ものすごい迫力でした。

すごい観光地です。

どなたでも楽しめることは間違いありません。

 

拙政園は、中国庭園の究極の姿の一つであることは間違いありません。

この快楽は、体験してみないとわかりません。

写真では全く伝わらないかもしれませんが、たくさんの写真でその片鱗でも伝わったでしょうか?

 

ぜひ一度訪れてみてください。

 

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