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働き方の未来(?)

ここ数年、北京の大手企業の物件のランドスケープに関わる中で、働き方の未来(?)を体験しました。

おそらく日本でも数年後には多くの会社がこのような働き方をするようになるのではないか?と思うような劇的な変化だったので、記しておきたいと思います。

北京では、大企業が集まるCBD地区、国貿にある大手不動産会社の仕事に関わらせていただきました。

 


 

私は2000年に大学院を卒業し、設計事務所で働き始めました。

入ったころはまだコンピュータによる設計が普及しておらず、手書き図面がぎりぎり残る時代でした。

ペンで描いた図面にコピック(デザイン用マジック)で色を塗って、コピーを取って紙を切り貼りしてプレゼンテーションを制作していました。

図面もまだ手で描いている人が多く、図面は青焼き(大判コピー)で提出していました。

青焼きインクの酸っぱいようなにおいが懐かしく思い出されます。

全員がコンピューターを使っていたわけではないので、連絡は電話とFAXのみで行われていました。

コンピューターで図面の書けない人は、手書きで書いた図面をCADオペレーターに清書してもらっていました。

今から思えば実に牧歌的な時代でした。

 

 

そのころから当時務めていた事務所では中国の仕事も扱っていたのですが、連絡手段が電話しかないため、毎月1〜2週間上司が中国に打ち合わせに行って、現場を見て現地で打ち合わせをして、日本に帰ってから会議を開いて皆で情報を共有して、さあ作業開始、という日常でした。

当然作業している間は中国と連絡は電話でしか取れないので、作業が完了したらまた中国に持って行き、先方の意見を聞き、持ち帰ってからまた次の作業が始まりました。

このころは、中国のクライアントとのやり取りの頻度は行き来できる時間と等しく1〜2週間程度ごとで、締め切りは早くても1か月ごとでした。

2005年あたりまではこのような状況でした。

 

 

数年してコンピュータが普及すると、すべての図面をコンピュータで描くようになり、連絡はメールで行うようになりました。

これが海外の仕事をする上では、劇的な変化でした。

図面を描いている途中でもメールで送ることができるので、先方と設計内容をある程度共有することができるようになってしまったのです。

出張の間にも上司に図面を見せられるようになり、メールや電話で変更の指示等も来るようになりました。

しかしメールと電話ではさすがにやり取りできる情報も限られていて、常にメールや図面を見られるわけではありません。少なくともコンピュータの前にいなければやり取りできないので、1日、2日のタイムラグがあります。

しかし施主や上司とのコミュニケーションの頻度は、数日おきに早まりました。

これは図面を書く側の人間としては非常に大きな変化で、毎週締め切りがやってくるようになりました。

スマホが普及する以前、2015年あたりまでではこのような状況でした。

 

 

しかし現在、さらに大きな変化が起こりました。

現在の中国では、大企業も中小企業も、皆がSNSを最大限利用して仕事をするようになりました。

中国ではWECHAT(LINEとFACEBOOKとインスタグラムとAPPLE PAYとiMessage・FACETIME)を全部合わせたようなアプリ)というSNSアプリが、スマホを持つ人の100パーセント近くに普及していて、コミュニケーションから日常生活上の支払いの全てまで、WECHATを用いて行います。

WECHATでは、文字のやり取り、ボイスメッセージ、複数人とのテレビ電話、写真やファイルの送付、日記機能、情報の共有、JPGやPDF・OFFICEファイルの閲覧等、SNS時代に考えられる限りのことが1つのアプリで何でもできてしまいます。

人々は常にWECHATで友達や恋人、仕事相手とやり取りしていて、延々とメッセージが届き続けます。

あまりに頻繁にやり取りするため、もはや文字入力も面倒になったようで、現地のほとんどの人はボイスメッセージを多用します。

 

 

仕事上初対面の相手とは、もはや名刺をやり取りせず、初めからWECHATのIDを交換します。

IDを交換したら、プロジェクトの関係者全員でグループを作って、情報・連絡を共有できるようにします。

さらにプロジェクトの作業上のチーム内や、段階によっても異なるグループをつくります。

これがプロジェクトごとに行われるため、いくつかのプロジェクトが同時に進行する際には十数個のグループでやり取りが行われます。

会社内でも部門やプロジェクトごとにグループが作られます。

 

 

設計の仕事の場合、図面を描いてまず下打ち合わせをするために、プロジェクトのグループで共有します。

すると関係者全員に即座に共有され、スマートフォンのアプリ上で図面を確認できます。

すぐさま様々な意見が関係者から出され、修正の要求が出来上がります。

それから修正作業に入るのですが、意見が出されてから、極端な場合はその日のうちに修正が要求され、締め切りが決定されてしまうため、毎日何らかの締め切りがあります。

施主企業のトップの指示が即座に部下の隅々まで伝達され、設計側まであっという間に伝わってくるようになりました。

 

 

施主側は、提出された図面をスマートフォンやコンピュータ上で眺め、即座に意見を出してきます。

しかし見てその場で出されるような意見は、次の日には気が変わる場合も多く、また異なる人が違う意見が出ればすぐに覆ってしまうという側面もあります。

関係者が皆でじっくり検討して決定した意見ではなく、皆が常に個人の判断を気軽に流すようになりました。

その結果、設計側から見ると、すさまじい勢いで毎日変更意見がやってきて、毎日が締め切りになってしまいました。

世界のどこにいようが関係ありません。

 

そうなると、なかなか落ち着いてデザインを考えることができませんし、性急な指示ばかりだと間違いも多くなる等の弊害も大きくなるのではないかとも思うのですが、施主とのコミュニケーションは圧倒的にやりやすくなりました。

 

なにしろ、すさまじいコミュニケーションのスピードと量です。

仕事の仕方は劇的に変わってしまいました。

プロジェクトの進行スピードを飛躍的に上げられるという意味では、ビジネス上はものすごいツールです。

 

 

 

中国の全国的な企業となると各地に支社があるのですが、中国は果てしなく広く気軽に行き来できないため、会議は常に本社といくつかの支社と同時にビデオ会議です。

さらに日本の設計側とつないで3〜5か所で同時にビデオ会議を行う場合もあります。

ビデオ会議とSNSによる共有で、世界のどこにいても同様なコミュニケーションができるようになってしまいました。

しかも高価な機材が必要なわけではないので、大きな会社組織でなく、個人対個人でも同じような仕事の進め方になります。

 

そんなことは技術的には何年も前からできるようになっていたのでしょうけども、個人的にはそのような仕事の仕方が日常化したのは、ここ2,3年のことでした。

 

 

設計者としても利便性は大きく、日本にいながらにして、中国の設計事務所やパース屋さんに仕事を外注したり、パートナーと協働したりすることができます。

WECHATで打ち合わせ、契約をして、急いでる場合は24時間交代で作業してくれるので、常に上がってくる進行状況をスマホ上で確認して、その場で修正点を記入して送り返すと、恐ろしいスピードと質で成果品が仕上がってきて、納品と支払いまでWECHATで済ませます。

また、離れた場所にいる何人かの個人の設計者と協働してプロジェクトを進めることもできるようになりました。

もはや距離も時間も問題ではなくなりました。

 

しかしあまりに簡単にいつでもコミュニケーションが取れるため、こちらからも無限に修正点を指摘してしまったり、夜遅くでもいつでも指示を出して、相手を疲弊させてしまいがちになってしまいます。

 

 

 

以前中国の仕事をメールでやり取りをして進めていた頃には、中国の物件の進むスピードは日本の3倍くらい早くてしんどいな・・・と思っていたのですが、最近は5,6倍くらいになってしまったイメージです。

 

すっかりつながりすぎる社会がやってきてしまいました。

スマホは常にメッセージ着信の通知音を発し続け、1対1で会話していても、相手は届くメッセージを確認しながら話している状態です。

 

 

中国の人々のせっかちな気質が生んだ仕事の仕方かもしれませんが、近い将来日本も同様な働き方をするようになるのではないかと思われます。

むしろ同様の働き方をしないと、国際社会での仕事ではこれまでよりもさらに大幅な遅れをとってしまいます。

 

 

このような状況になると、設計者としてはデザインを考える時間をどれだけ確保できるかが難しい問題ですが、一方ではものすごく大きなチャンスが開けてきているとリアルに感じます。

大きな組織でなくても、専門的な個人が集まって国際的な仕事を手掛けることができるようになってきているのです。

 

急激な社会の変化に対応しなければならないストレスも大きいのですが、一方では非常に刺激的な時期です。

社会と自分自身の変化を楽しんで行けたらと思います。

 

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