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ヒルサイドテラス若葉台-1 コモンとは?

最近、一昨年から設計を進めていた、"まち"が出来上がってきました。

51棟の一戸建て住宅とセンターハウスで構成される"まち"で、稲城市若葉台で今月モデルルームがオープンする、"ヒルサイドテラス若葉台"です。

住宅全体のイメージと、基本設計を担当させていただきました。

他にも、都市開発コンサルタント・建築家・インテリアデザイナー・ガーデンデザイナー等、多くのデザイナーが協働して作り上げられました。

大規模なプロジェクトで様々な側面を持つため、何回かに分けてプロジェクトの過程で考えたことを記していきたいと思います。

 

ヒルサイドテラス若葉台の特徴は、まずは何と言っても"コモン"(小広場)を持つまちだということです。

住宅地全体の中心としてセンターハウスがあり、さらに3〜4戸ごとに"コモン"と呼ばれる、各住戸の駐車スペースを集めてつくった小広場を持つ、小さなまとまりを形成します。

しかし、"コモン"とは何でしょうか?
 

 

"コモン"と言われても、日本の普通の住宅地ではなかなか見られないため、どのように考えてよいのか、どのように使えばよいのか、なかなかわかりにくいのではないかと思います。

 

個人的には、"コモン"とは、人は集まって住むものだ、という"共生"の意思のようなものではないかと思います。

 

若葉台ヒルサイドテラスでは、蛇行する道路の両側に、3〜4戸づつのまとまりを形成して住宅が作られています。下の図面の"03"の部分が、"コモン"と呼ばれる共用の小広場です。

 

 

 

"コモン"の由来は、古くはイギリスの住宅地開発の祖、エベザネー・ハワードの田園都市にさかのぼります。

1898年にイギリスのエベザネー・ハワードが提唱し、その後ロンドン郊外のレッチワースにおいて実現した"田園都市"が近代郊外住宅地開発の最初の事例です。

産業革命に伴い都市の環境が悪化した結果、自然と共生する職住近接型の緑豊かな理想都市を、大都市周辺に建設しようという理想が生まれてきたのです。

この"田園都市"は、世界各地の郊外型の都市開発に大きな影響を与えたのですが、田園都市の都市計画に当初から組み込まれていたのが、"コモン"(小広場)なのです。

 

このレッチワースを訪れたことがあるのですが、できてから百年ほど(!)経っていることもあり、ロンドン郊外と言ってもロンドン市内から相当離れていることから、現在では街全体が少しさびれた様子でした。

田園都市の事例としてはロンドン郊外のレッチワースが最初なのですが、現在でも最も理想的な住宅地の姿としてすぐに思い浮かぶ場所の一つとしては、ロンドン近郊のハムステッド・ガーデン・サバーブがあります。

ハムステッドは"田園都市"の理念に基づいて20世紀初頭に開発された住宅建築と都市計画の事例で、現在も高級住宅地として豊かな環境を維持しており、"豊かなまち"とはどのようなものなのか、具体的なイメージを与えてくれます。

 

写真は、中心部の緑地がハムステッドヒースで、その周囲の広大なエリアに住宅地が開発されています。

 

訪れてみると、伝統的なスタイルの住宅と、あまりにも緑豊かな住宅地で、100年以上経った現在でもその姿が維持されていることに驚きます。なんとぜいたくな住宅地でしょうか。

 

 

元々ハムステッドヒースという広大な緑地の周りに開発されたエリアで、非常に豊かで美しい自然環境を守り、自然の中に住むというコンセプトでつくられたようです。緑地はイギリスの自然保護区域に指定されています。

この住宅地は、以下の理念に基づき開発されました。

・あらゆる階級、あらゆる所得層の人々に住まいが提供されること

・住宅の密度を低く保つこと

・街路は広く、街路樹を植栽すること

・各戸の区画は、壁ではなく生け垣で区切ること

・林地と公園は、誰もが自由に利用できること

・静寂であること

非常にシンプルですが、現在の郊外住宅地開発の起源となるコンセプトです。

 

 

空から眺めてみると、都市計画の全体像が見られます。

道路はわざと緩やかにカーブさせられ、奥まで見通せないようにして車のスピードを落とさせたり、住宅が立ち並ぶ街並みを豊かに見せています。

 

 

ロータリー状の交差点も緑地が広くとられて、象徴的な場所としてつくられています。

十字路はなるべくつくらないようにして、三叉路が多いことも特徴です。

住宅は、レンガ造のイギリスの伝統的なスタイルです。

 

 

また、直線・円形・三角・四角等、様々な形態の行き止まり道路が作られ、その周りに住宅が集まり、小さな村のような景観を形成しています。

行き止まりの道路部分は、半プライベートなスペースなため、部外者は入れません。

この住宅で囲まれた道路の行き止まり部分、もしくは芝生広場の半プライベートな場所が、"コモン"と呼ばれる住人だけの共有スペースです。

住人以外の通過交通が入ってこないため、住宅地の中でも最も静かに暮らせる部分なのです。

ここでは、行き止まり道路ごと、広場ごとに「・・・クローズ」というような名前が付けられています。「閉じた場所」「プライベートな場所」という意味でしょうか。

数戸の住宅の集まりから、数十戸まで、規模も様々です。

 

 

例えば上の写真のエリアでは、十数戸の住戸が集まって共有の道や庭を持ちます。半プライベートな領域のため、部外者は入り込めない雰囲気です。

共有の道路や庭は、特に何か作り込まれている場合は少なく、多くはただの芝生広場にベンチが置いてあり、草花が植えられているくらいです。

この広場は、どのように使うか、もしくは使わないかに関わらず、コミュニティー(地域共同体)の象徴なのです。

コミュニティーを形成して住むのが、豊かな人間の暮らしなのだ、という強い意思のようなものを感じます。

 

 

まっすぐな道路に住宅が立ち並ぶ場所もたくさんありますが、曲線の部分、行き止まりに家がまとまる部分等、非常に多様な場所がつくられています。

それにしても空から眺めてみると、非常に多様な街のつくりかたをしています。

非常に広大な住宅地でありながら、同じ場所は2つとないと言っても過言ではありません。

 

 

上下の写真は、典型的な行き止まり道路です。

特に何か作り込まれているわけではありませんが、通過交通がないだけでも非常に静かで安心できる環境です。

半プライベートな道路に入り込んだだけで、何か他人の家の敷地に入り込んでしまったような感覚があります。

 

 

実際にこの街を歩き回ってみると、緑豊かで景観も素晴らしく、非常に豊な暮らしを実感できる街並みです。

住宅一軒の敷地が広大で、公共もプライベートも緑地面積がおそろしく広大です。

 

ハムステッドヒースから、ガーデン・サバーブ内の教会への眺め。

 

少し歩くとすぐに緑地や公園・ゴルフ場に行き当たります。公園や緑地の緑がまた非常に美しいのです。

何とぜいたくな住宅地でしょうか。

ここを訪れて以来、豊かな住宅地というと、真っ先にこのハムステッド・ガーデン・サバーブが思い浮かびます。

 

 

イギリスの"田園都市"の開発以降、ヨーロッパばかりでなく世界中の高級住宅地開発のモデルとなり、この"コモン"が多用されてきました。

 

 

一方、日本でも1980年代〜90年代の住宅地開発において、このような"コモン"(共有地)を持つまちの様々なバリエーションが試みられました。

中でも住宅作家の大御所宮脇檀氏が手掛けた住宅地開発が有名で、東京都日野市にその事例の一つがあります。

フォレステージ高幡鹿島台という住宅地です。

 

 

住宅地の中心には蛇行するメイン道路が東西に通り、その南北に行き止まり道路がつくられ、7〜8戸の住宅が囲みます。

中心の蛇行するメイン道路以外は、この住宅地の中を通過交通は通れず、住民の車だけが石張りの道の奥まで入れます。

さらに行き止まり道路は東西に歩道で連結され、歩行者だけが東西南北に通り抜けられるようになっています。

 

 

現在では蛇行するメイン道路の両側に植えられた植物が成長し、もはや公園のように見えます。

行き止まり部分の道は石張り舗装になっていて、歩行者のための道であることを示しています。

石張り舗装と植栽のため、通常の道路には見えず、ほぼ公園の広場のように感じます。

 

 

広場の中心にはシンボルツリーが植えられています。

コモンや曲線道路沿いには、豊かな植栽が四季折々の変化を見せます。

 

 

このような住宅地のつくりかたは、近年の日本の住宅地開発では、ほとんど見られないものです。

行政によって推奨されない道路の作り方とみなされ、非常に作ることが難しくなってしまったのです。

ミニ開発ではやむを得ず行き止まり道路が作られますが、大規模な開発では行政の指導により、作れない場合がほとんどです。

また、開発する敷地に入る住宅の数の効率を考えた場合、小広場や道路の敷地面積が余分に必要で、あえて住宅の密度を低くしなければならないため、ぜいたくな住宅地の作り方なのです。

 

 

しかし開発効率に逆らってでも、"コモン"は必要なものなのでしょうか?

わざわざ曲がりくねる道や行き止まり道路にどんな意味があるというのでしょうか?

私たちは、"豊かな暮らしとは何か?"、"豊かな住宅地とはどのようなものか?"と考えた時に、"コモン"がその方法の一つとなると考えています。

 

日本の住宅地のほとんどは、まっすぐな車道沿いに住宅が立ち並び、駐車場が備えられています。

当然車の交通を考えるとこのような方法が最も効率的なため、一般的には日本の街はこのような姿をしています。

しかし日本のほとんどの道路は、車が通行するためだけのものになってしまいました。

このような街の機能本位な姿を眺めては、常々不満に感じてきました。

道は車のためだけに作られるべきではありません。人のための道であるべきです。

 

私たちが子供のころは、状況はだいぶ異なりました。

子供は道路や空き地で走り回り、ボール遊び・ローラースケート・鬼ごっこ・お絵かき・雪遊び等、何でもできました。

その傍らで親たちは雑談に興じ、近所づきあいはさかんでした。

道路だけではなく、空き地や雑木林もあちこちに残り、四季折々目を楽しませてくれる緑地や、子供の遊び場には事欠きませんでした。

 

 

かつての日本にはどこでもあった暮らしの豊かさは、現代の都市環境では、よほど綿密に緑地や広場が整備された高級な住宅地やマンション群でしか体験できないものになってしまいました。

このような豊かな暮らしを現代の都市環境の中で実現するための仕掛けが、コモンであり、曲線道路であり、豊かな植栽計画なのです。

 

集まって住むメリットを享受できる街、その答えの一つが"コモン"を持つ街なのです。

 

 

 

 

 

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