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ヒルサイドテラス若葉台-2 多様性のある住宅地とは?

ヒルサイドテラス若葉台のまちづくりのテーマの一つは、"多様性"でした。

まちづくりのテーマとしては非常に抽象的なのですが、大まかには多様な世代・多様な家族構成・多様なライフスタイルを持つ様々な種類の人々が集まって暮らす街という意味で、現在の都市開発にとっては非常に大きなテーマなのです。

 

 

これまでの住宅地開発では、新興住宅地というものは完成時に一気に同じような間取りの住宅が売りに出されるため、当然ほとんどの購入層は30代〜40代の子供を持つ核家族が中心となりました。

その場合、当初は子供を通じて一緒に遊んだり家族間で交流を持てたりしてにぎやかで良いのですが、数十年後に高齢化を迎えるにつれ、街の活力が失われてくる、というのがこれまでの住宅地開発の歴史でした。

どのような新興住宅地でも、同様な問題を抱えています。

 

このような問題を可能な限り避け街の活力を維持し続けるため、近年の大規模開発では、マンションの場合は4LDKからワンルームまで様々な住戸を組み合わせて開発し、そもそも様々な世帯が住めるようにする場合があります。

その結果、長い時間の間には住人が入れ替り、街の新陳代謝が進むような方法が取られています。

都心の大規模マンション等の開発ならば、このような手法で実際に多様な住人が集まります。

 

 

一方、郊外の一戸建て住宅地の場合はなかなかそうもいきません。

郊外の一戸建て住宅の購入層の大部分は、現在でもやはり主には30〜40代の子持ち世帯で、求められるのは3LDK~4LDKの標準的な間取りがほとんどです。

これまでの住宅地開発では、このようなニーズに従って同じような間取りの家ばかりが供給されてきたのですが、数十年後の街の状況を考えると、一戸建て住宅地の開発においても、"多様性"が求められるようになったのです。

 

"多様性"は、住宅地開発のテーマとしては良いのですが、それを実現する方法を考えると、なかなか難しいものでした。

今回のプロジェクトでも、最初は51戸の住宅の中に、2世帯住宅や賃貸住宅・DINKS(共働き夫婦のみ世帯)向け住戸・SOHO(自宅内のスモールオフィス)が可能な住戸等、4LDKにとらわれずに様々な間取りの住戸を作ってはどうか、という議論がありました。

 

しかし具体的に考えてゆくと、では何割の住戸をこの特殊住戸にするのか、もしくは一つづつ作るのか、作ったとしても果たして売れるのかどうか、ニーズがどのくらいあるのか?というようなさまざまな疑問が湧いてきました。

しかも、DINKS世帯や2世帯家庭がいつまでもそのままの形の世帯かどうかは誰にもわかりません。

SOHOだってずっと必要なものとは限りません。

時間が経てば家族の形もライフスタイルも当然変わっていきます。

 

 

そこで、だいぶ考えた末に提案させていただいたのは、すべての住戸に可能な限りの可変性を持たせることで、様々な世帯やライフスタイルのニーズにも答えられるようにする、という方法でした。

家の使い方を変えられれば、家族の形やライフスタイルが変わっても対応できます。

元々日本の住宅では一般的に和室(客間)を多目的な用途に利用してきました。

実際に客間として接客に使う場合や、まれに親族が宿泊する時に布団を出して寝る場合、また小さな子供がいる場合の寝室に使う場合等、様々に利用できるため、洋風になった現代の住宅でも和室は多目的室として残されてきました。

この和室をより現代的な多用な用途に使えるように使えるように考えたのが、今回のマルチ・パーパス・ルーム(多目的室)なのです。

 

一方、住宅地全体の姿は、すでに”コモン”(小広場)を持つ街にする、ということが決まっていました。

2〜4戸ごとに共通の広場を持つ、村のような小さなまとまりをもつ住宅地にする、ということです。

 

そこで、多目的な部屋"マルチ・パーパス・ルーム"を各住戸のコモンに面した場所に設け、玄関と別に外部から直接アクセスできる

ようにすることで、もっと様々な用途に対応できるようにすることにしました。

 

下の写真の住戸では、右が玄関、左がコモンに面したマルチ・パーパス・ルームの入口です。

 

"マルチ・パーパス・ルーム"を"コモン"に面して配置することにより、"コモンに対して家を開く"、という意味も生まれました。

これまでにも”"コモン"を持つまちはありましたが、"コモン"に対して住人の活動が開かれたまち、というものはどこにも無かったのです。

 

 

"マルチ・パーパス・ルーム"の床の仕上げは、タタミばかりでなく、コルクタイルや磁器質タイル等、様々な仕上げを用意しました。

 

写真は、奥が"マルチ・パーパス・ルーム"で、床はタイル貼り、趣味室として使う場合の例です。

 

基本は4LDKの間取りで通常の分譲住宅のニーズを満たしながらも、そのうちの1室をマルチ・パーパス・ルーム(多目的室)として、リビングルームとつなげて使えるようにすることで、利用方法を家族に合わせて変化させられるようにしました。

 

 

例えば、

・自宅内に仕事場を作りたい

・近所の人々や子供たちを集めて交流スペースにしたい

・音楽教室等の小さな習い事をやりたい

・自転車やサーフィン等の趣味を持つ場合の趣味の部屋が欲しい

・簡易な2世帯住宅にしたい

・介護する必要が出た場合に外からアクセスしやすい部屋が必要

等の使い方が考えられます。

多目的に使えることと、外から直接アクセスできることで可能になることがたくさんあると考えられます。

 

リビングからマルチパーパスルームを望むと、コモンの緑が目に入ります。

この住戸では、南側のリビングから北側のマルチパーパスルームまで、風と光が通り抜けます。

 

 

特別な活動をしない場合は、もちろん従来のように客間として使ったり、ただの書斎や勉強室として使う、もしくは広いリビングとして使うこともできます。

コモンに面した大きな窓を見せたくない人の場合は、カーテンを閉めておけば通常の家と同様の使い勝手です。

 

 

写真はフチなしタタミ仕上げの住戸で、あっさりしたモダンな和風の雰囲気のため、多目的な用途に適しています。

 

そもそも、このような単なる和室とも異なる多目的な部屋が必要だと思ったのは、私自身が欲しい部屋だったからです。

私は2007年に設計事務所を自宅で開業しましたが、その際の自宅は郊外の一戸建て住宅でした。

1階にLDKと水まわり、2Fに3つ寝室という典型的な分譲住宅でした。

これが、夫婦と仕事場という私の利用方法には全く使いにくいものだったのです。

リフォームした家の全容は、以下のページです。

http://furukawa-d.com/works/column.html

 

仕事の作業場は、2Fの寝室を利用して十分な広さが取れましたが、小さな3室に分かれているため、壁を壊して大きな部屋にして利用していました。

困ったのは接客スペースで、来客時はリビングを用いて打ち合わせをするほかなかったのですが、普段生活している場所のため、生活感が出すぎて困りました。

玄関と別に外部からアクセスできる打ち合わせ室が必要だったのです。

 

 

また、以前一戸建て住宅でヘアサロンを営む一家の家をリノベーションさせていただく、という仕事の機会がありました。

このご一家は非常にたくましく、普通の広さの古い2階建て住宅を改装して、1Fでヘアサロンを営み、もう一室でカフェを経営し、そこで頻繁にイベントも行い、2Fだけで生活するという暮らしをしていました。

 

ヘアサロンは6畳程度、カフェは4畳半程度の広さなのですが、非常に人気のあるヘアサロンで、常に3か月先まで予約で埋まっているという驚異的な活動をしていました。

さらには近所の子供たちが集まる遊び場にもなっていて、何か公共に開かれた、珍しい住宅でした。

 

さすがに生活空間が手狭だったためリノベーションの必要が出てきたのですが、彼らのオープンな住宅の使い方に衝撃を受けました。

やろうと思えば自宅でどんな活動でもできる!と思い知らされたのです。

この家の詳細は、以下のページです。

http://furukawa-d.com/works/kunitachi.html

 

 

そもそも私の生まれ育った東京都国分寺市という場所は40年以上前に開発されたエリアで、高齢化も進んだ古い住居専用地域なのですが、見渡してみれば普通の住宅地でも様々な活動をしている人が大勢いたことに最近になってようやく気づきました。

隣のおじさんは昔から自宅で働いていて、有名電気メーカーの製品の説明書をつくる専門家だということで、いつも家で仕事をしていました。

同じ通りには、小さな塾があったり、有名な写真家が家の中にスタジオを持っていたり、会計事務所の看板のある家もあります。サーフィンが趣味の家には家の中にボードを置くスペースがあるそうです。

仕出し弁当屋さんを営んでいる家や、奥さんがピアノ教室を営んでいる家もあります。以前は習字教室もありました。

自分の家でも、母親と兄弟3人がピアノを弾いたため、ピアノ室を増築していました。

住居専用地域内のたった一つの通りだけで、これだけの活動が営まれていたのです。

 

それを知ったとき、長年何の特徴もない普通の街・・・と思ってみていた我が街が、別のものに感じました。

しかし、よくよく見たり、話を聞かなければ気づかないような、表にはなかなか出てこないような活動ばかりでした。

地域住民は皆、自分の活動に合わせて家をリフォームしたり、使いにくいまま活動したりしていたのでしょうけれども、そもそも住宅自体に様々な活動に使える場所があったら、どんなに良いかと実感しました。

そして、これらの活動が街にオープンな形で行われていたら、見た目にもどれほど面白い街になったでしょうか。

 

 

またもう一つ、2Fにも住む人によって用途を変えられるオープンなミニスペースも用意しました。

このミニスペースは寝室とは別に2Fの階段を上がったあたりに位置し、

・子供の遊び場

・大きくなったら家族みんなの勉強スペース

・アイロン等のちょっとした家事スペース

・ミニ書斎

・あまり使わない場合には収納スペースに

等、様々な使い方が考えられる小さな空間です。

 

写真は子供の遊び場と学習スペースにした場合です。階段を上がってすぐのスペースで、透明な手すり越しに階下の吹き抜けともダイレクトにつながっています。

 

時間が経つにつれ、変化する家族構成やライフスタイルに応じた使い方ができるスペースを各階に用意しました。

 

下の写真は、階段室脇の小さなスペースをミニ読書スペースにした場合です。

 

可能な限り多目的に使えるスペースを用意することで、家族のかたちやライフスタイルの変化に合わせて、活動を支えられるように考えました。

 

住宅はもっと多様な個人の活動を支えられるのではないでしょうか?

活動が活発になり、オープンに街に開かれば、街には活気があふれ続けます。

そのような街が、未来の街の姿であると良いと思いました。

 

 

そして、この「コモンに面したマルチパーパスルームを介して家が街につながる」という点が、これまでの街づくりには無かった、ヒルサイドテラス若葉台独自の試みなのです。

 

これまでコモンのある住宅地はありましたが、いずれもコモンに対して家は閉じていました。

趣味室や活動のための部屋を備えた、まちに個人の活動が開かれた住宅は時々ありましたが、街中に稀にある程度で、さらにコモンはありませんでした。

コモンとマルチパーパスルームの両方を備えた住宅地を実現したことではじめて、家がまとまって共用の小広場を持ち、家を開く意義が生まれたように思います。

 

 

「家がまちに開かれた、住宅地」

というものは、住居地域においてはこれまでおそらくほとんど例がなく、一見よくある普通の住宅地のようにも見えるのですが、非常に珍しいものです。

このような住宅地が増えていくと、社会の姿が少しづつ変わっていくのではないでしょうか?

 

このまちで、家族ごとにどのような使い方がされてゆくのか、これからの街の姿が楽しみです。

 

 

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