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森の火葬場−2

今度は森の火葬場周辺のランドスケープについてです。

北欧地域には「人は死ぬと森に還る」という死生観があります。
森の墓地は、このような死生観に基づき、丘陵地帯の森と地形を生かし、自然に溶け込むように礼拝堂や火葬場、墓地が作られています。


墓地全体の敷地は広大で、様々なタイプの墓地が広がり、礼拝堂が点在します。
火葬場と周辺の芝生エリアが世界的に有名なのですが、周囲の墓地のランドスケープも非常に優れているのです。

前回の火葬場周辺のエリアは中心部にすぎず、周囲には広大な森の墓地空間が広がります。
地図中左上の赤い部分が火葬場と芝生の丘エリアです。



車で来ないと非常に厳しい程のスケールなため車で来る片も多いと思われますが、
火葬場エリアはうまく車動線を回り込ませて、歩く人だけの理想的な環境が作られています。

森の墓地内は、とにかく森の中を真っすぐに歩き続けることになります。



道は真っすぐなのですが、坂道や植物によって先まで見通せなくすることで、風景は変化していきます。
軸線のはるか先には礼拝堂があります。



上の写真では、手前はやや森が開けて木々の密度が荒く、奥に行くにつれて樹種も変化して木の密度が上がっています。
「森に還る」イメージを実体験させる道行きです。

歩くにつれ森の密度が高まり、狭められた視線の先にあるのは、「復活の礼拝堂」です。
礼拝堂には、残念なことに工事中で入れませんでした・・・。



全部歩き回ると1時間くらいはかかる広大な森の墓地なのですが、歩いていくと密集した森のエリアや、落葉樹のエリア、針葉樹のエリア、開けた芝生のエリアと変化を続け、同じ場所はありません。



森の中のお墓は、材質もデザインも様々ですが、一定の方向を向いています。



ほとんど全てのお墓は、芝生に石板を立て、植物を植えて飾るという非常にシンプルなものです。
しかし森の中に石板と草花が散在することで、森の中の花畑のような、非常に心温まる風景です。
日本のようにお墓が怖いような場所ではなく、散歩して過ごして和む公園のような空間なのです。
実際にここでウォーキングやサイクリングをする人も多いようです。



森の一角には、礼拝堂もあります。
礼拝堂の入口のゲート。



ゲートをくぐると、森の向こうに礼拝堂が見えます。



森の中にたたずむ小さな礼拝堂は、黒い三角屋根が森に溶けこんで、主礼拝堂と同じくここでもポーチだけが目立つ見所となっています。
納屋のような素朴な外観です。



森の墓地で最初にできたのが、この小さな礼拝堂だそうです。
その後20年ほどかけて施設が整備されていったそうですが、巨大な主礼拝堂と玄関ポーチは、この小さな礼拝堂のポーチと祭壇が拡大して作られたものであることがわかります。



屋外にも礼拝堂のような庭園空間が広がります。
窪地に森を切り開いて長方形の空間が作られています。



真ん中は井戸のような水場です。



軸線が、はるか遠くまで森の中を貫きます。



こちらは火葬場のアプローチ沿いのお墓エリアで、設計者アスプルンドのお墓もあります。



塀や植物で部屋のように分割され、来訪者がそれぞれ落ち着いて死者に思いを巡らせられる空間です。



究極的にシンプルなお墓は、地面に埋め込まれた石板とわずかに植えこまれた草花だけのものです。
ほとんどただの庭園にしか見えません。



丘の上から眺めたお墓。
こちらは植物で空間が分割されています。



どちらを眺めても、あまりにも美しい風景が広がります。



人は家族を失うような究極的な悲しみを受けた際、どのような言葉でも慰めることは難しいものです。
しかし山に登ったり海を眺めたりして自然の美しさや大きさに触れると、何か人間も大きな自然の営みの一部であるをことを実感するためか、悲しみや絶望がやわらいだり、自然に慰められることがあります。

森の墓地を歩いていると、そのような大自然に触れた際の慰めや畏敬の念と同様な感情を覚えます。
建築とランドスケープデザインを突き詰めて統合すると、大自然に匹敵する場所を生み出すことができる、という壮大な希望のようなものを感じました。



元の地形や植生を生かしながら森を切り開いて空間をつくり、新たに植物を植え、建物を自然の中に溶け込ませるようにつくる。
環境デザインの理想の姿がここにあります。

まさに環境全体が、世界遺産にふさわしい場所でした。




 

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