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パンテオンには建築の魅力の全てがある。

ローマ滞在中、住まいから近いためパンテオンの前をよく通りましたが、何時・何度見てもすばらしく、興味が尽きませんでした。
しかも他の国へ行って様々な建造物や世界遺産を眺めて帰って来ても、「やはりパンテオンのようなものは他のどこにも無い」と改めて感じてしまうほどです。

西洋建築史においても、もちろん不朽の名作の一つに数えられていますが、何度も眺め、各地の建築物も見て回っているうちに、"パンテオンは世界最高の建築物の一つである"ということが、強烈に実感させられました。
パンテオンには、"建築"の魅力の全てが凝縮されているのです。


パンテオンの全体像は、巨大なドームを持つ円堂と、その前面にギリシャ式の破風と列柱が設けられた方形が組み合わされた建築物です。
この単純な構成の中に、"建築の魅力"の全てが体現されているのです。

まず特筆すべきなのは、その"巨大さ"です。



円堂の平面と、ドームの直径と高さは43.2m。
ドームの天窓は直径7.5m。
壁の厚さは6m。
入口の柱は高さ12.5m。
柱の直径は2m近くありそうです。
しかも石を積み重ねたものではなく、一本の花崗岩です。
この列柱だけでも、すさまじいボリューム感です。
人が小さく見えます。



しかもこの巨大な石を立てた上に、巨大な石の梁を載せています。
柱の上に継ぎ目が見えるので、本当に巨大な石の梁を載せているようです。
もっと新しい時代になると薄い石を貼っている場合が多くなるのですが、
パンテオンでは一本の石を積み上げて梁が作られています。

こんなに巨大な柱が立って、巨大な梁が浮いて、巨大な空間がつくられているという実感が、
建築的な感動を呼び起こす原点ではないでしょうか。
しかも2000年近くも前に。




歴史的な西洋建築のデザインは全て、基壇・柱・破風の三層構造で全体が構成されているのですが、
梁自体も3層構造になっています。
一番下の層はモールディング(水平なライン状の彫刻)が刻んであって、2層目は平ら、
3層目にはまた植物的なモチーフが加えられたモールディングが刻まれています。

後世の西洋建築でも繰り返しこのような梁の装飾が続けられるのですが、どうしてこのような構成の装飾になったのか、
その起源が石の積み方を見ると良く理解できます。

その上の破風(三角の部分)も分厚い石を積んで作られているようです。
大きな石のエッジ部分に彫刻を施して、積んで全体のデザインを構成している、ということが良くわかります。



破風の裏側、小屋下の部分の梁はわりと無造作に石を積んでいて、作り方がよく見えます。
石造の大梁の上に、木造で屋根を架けています。



この時代の他の神殿のほとんどは、崩れ落ちてしまっています。
石を立てて載せているだけなので、当然巨大地震でもあれば簡単に倒れてしまいます。
パンテオンがほぼ完全な姿で残されているのは(石の柱は2本交換されているそうですが)、
頑丈な壁構造の円堂に付属する形で柱の空間が作られていたために、壊れずに済んでいるようです。

また、建物の側面を見ると、レンガ造の部分に薄い石を貼って作られている部分はすっかり石が剥がれてしまっているのですが、
巨大な石を積んで造られている部分は完全に残っています。
このように巨大な石を積んで造ったことも、2000年の時を越え、完全な形で残った要因となったようです。



円堂のほうも巨大さにおいては同様です。
43mもの巨大なコンクリートのドームを、しかも7mもの天窓が開いた形で、この時代によく造れたものだ、ということが根本的な感動を呼びます。
格子状の掘り込みは、ドームを薄く軽くするために造られたデザインです。



平面が43.2mの円形で、ドームの高さも43.2mのため、ドームは球体として完全な姿を持ちます。

また、ドームの底部が自身の重みで外側に開いてしまう力を支えるために、円堂の壁厚は6mもあります。
壁厚を利用して、部分的に掘り込まれて礼拝堂が設けられています。

円堂では空間やドームの巨大さ、列柱部分では柱の巨大さが、最大の見どころとなっています。



次に、"円堂"と"列柱"の全体構成についてです。
完全な円形と、方形の列柱の組み合わせによってパンテオンはできてきます。
円形と方形というのは、当然建築物の究極の形です。

建築とは極言すると、"柱"と"壁"(と屋根)に尽きます。
巨大な"柱"の空間と、”壁”の空間。
"Void"(虚)と"Mass"(実)です。

戦後から1990年代ころまでの、いわゆる建築のモダニズムの時代には、世界中でこのVoidとMassだけで建築が語られていた時代がありました。
その時代の建築の構成原理の全てであったということです。
以前読んだ本の中で、日本を代表する建築家の谷口吉生さんが自分の建築を語る際に、「構成原理はVoidとMassだ」というようなことを述べられていたのですが、それを読んだ時は若かったこともあって、「?」という印象でした。
あれほど複雑な建物を作っているのに、VoidとMassだけ?という疑問です。

パンテオンを見ていたら、今更ながら実感というか、体感できました。
建築の魅力は極言すると、"Void"と"Mass"、"柱"と"壁”、"円形"と"方形"、相反する空間それぞれの迫力と、コントラストから生まれてくる、と。



パンテオンには、そのような意味で、"建築の魅力の全て"が凝縮されています。
これ以上なく"完全な"構成であり、形態なのです。



ただ巨大な建物はたくさんありますが、これほど強力な建築的な魅力を持つ建物は他にありません。
巨大さ、完全性、プロポーション、材料、構造方法の全てが、パンテオンを魅力的な建築物にしています。

これまでもローマに来る度にパンテオンには必ず来ているので、今回で3度目です。
短時間でパンテオンだけを見ていると、"でかい"、"すごい"、"天窓から空が見える"という単純な印象しか残らないのですが、
今回は何度も眺めているうちに、これが世界最高の建築なのだ、という実感が持てました。

こんなに単純なことが40歳を過ぎてようやく理解できるとは・・・
やはり建築とは、学校や本で学ぶべきものでは無いようです。
体験することでしか学べません。学ぶには一生かかりそうですが・・・。

内部は照明がリニューアルされて、夜景も非常に美しくなりました。
パンテオンは、永遠に、何度でも訪れる価値のある建物です。



 

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