March 2024  |  01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

ローマの生活

拠点にしたローマでは、家具付きアパートメントを借りて生活してきました。
ローマは旅行するには素晴らしい都市ですが、いざ生活するとなると慣れるまでがなかなかたいへんでした・・・。
東京と比べると生活のあらゆる部分で、あまりにも不便なことが山積みなのです。
しかし徐々にこの不便な街に慣れてきてみると、普段の東京での暮らしとの違いがくっきりと見えるようになってきましたので、感じたままに記しておきたいと思います。


まずはアパートメントの立地ですが、ローマの下町、トラステヴェレ地区です。
「テヴェレ川の向こう側」という名の示すとおり、旧市街南西の街外れの地域で、古来庶民的なエリアです。
近頃はおいしくてリーズナブルなレストランがたくさんあるためか、観光客にも人気の地区です。
旧市街のほとんどの場所に歩いても行ける、ローマ感覚では便利な立地です。



しかし主要な観光地やショッピング街に歩いていこうと思うと、たいてい30分くらいは歩く必要があります。
バスは通れる道が制限されているために、どこへ行くにも使い勝手が悪く、歩くほうが早い場合がほとんどです。
バスに乗れてもなかなか大変で、東京の通勤電車と同様の混雑の上、道がでこぼこなために振動がものすごくて、非常に疲れます。
タクシーは唯一便利な乗り物ですが、やはり裏道に入ってくるのは難しく、近くの広場までしかたどり着けません。
そのためどこへ行くにもほぼ歩くことになるのですが、一度街に出かけると数時間歩き続けることはザラです。



近所のスーパーもしくは市場へは徒歩15分ほどです。
しかし自転車やバイク・車がないため、すべて手で持って歩いて帰る必要があります。
ビールやワイン、牛乳などを一緒に買い物すると、一人では持って帰るのが大変です。

さらに、歩道は石畳ですが、ヨーロッパ他国の石畳とは異なり、大きな石が地面に刺さるように並べてあるのですが、
この敷石がでこぼこでものすごい状態で、魚やヘビのウロコのようなになっています。
道路工事で平らにしても、コンクリートで固めるわけではないので、またすぐにでこぼこになってしまうようです。
この石畳のでこぼこが、スーツケースを引いていると非常にしんどいですし、普通に歩いていても足の裏が非常に疲れます。



また、借りた家具付きアパートの部屋は、エレベーターなしの5階です。
階段をぐるぐる回って上っていると、目も回って、もう何階だったかわからなくなります。
女性では到底旅行用トランクを持って上がれません。
出かける際も、忘れ物を取りに戻ったり、何度も出入りするのは非常に疲れるため、出かけるのにある程度覚悟が必要です。

下の写真は、建物の裏側の中庭の写真。
普段目にすることのない建物の裏側は、増改築を繰り返した結果、アジア都市のように滅茶苦茶でなかなか面白い眺めです。




毎日の街歩きと、デコボコの石畳、アパートの階段で、非常に足腰が鍛えられます。
現地の人は、女性も老人もたくましく歩き回って暮らしているようです。
ハイヒールは絶対に無理そうですが。



部屋の中もなかなか大変です。
水まわり、家具、間取り等、考えられる限りあらゆる部分が東京の暮らしと比べると非常に不便なのです。

携帯電話とネット回線は、石造のせいか室内では電波が安定せず、よく切れます。
現代の自宅でネット接続・携帯電話接続できないということが、これほど不便なこととは思いもよりませんでした。

キッチンは調理設備は一通り揃ってはいるのですが、非常に狭く使いにくいものでした。
バスタブなしのシャワールームは極小です。
お湯は出ますが、家中すべての水栓の閉まりが悪く、ぽたぽた出続けたり、水が出すぎたりで、やっかいです。
洗濯は付近のコインランドリーに行く必要があるのですが、いつも機械の不具合があります。
販売機やチケット売り場等の機械類は、相変わらずあまり信用できません。
テレビは20インチほどの懐かしい小さなもので、テレビの電波もなぜか時々途切れます。
それでも東京と比べても家賃はローマのほうがだいぶ高いのです。

家具付の部屋の中には便利なものは何も無いのですが、なぜか絵をかけたり花をかざったり、
キャンドルホルダーがたくさんあったり、素敵な暮らしをするためのグッズは盛りだくさんです・・・。
こだわるところがかなり違うようです。



街も自宅も様々な不便さが目白押しで、イライラして疲れることが毎日たくさんありました。
あこがれのローマ生活は、思ったよりも素敵でも何でもなく、ハードでなかなかに厳しいものでした。
このような生活に慣れるのは、日本の便利生活に慣れ鈍った体にはたいへんで、1ヶ月ほどかかりました。

しかし、1ヶ月ほど経つと、足腰が強化されてきたのか、階段の上り下りもでこぼこ道を長時間歩くのも平気になってきました。
徒歩15分くらいだと非常に近い感覚で、片道30〜40分くらいの目的地までは普通に歩きます。
基本徒歩にして、機械類や公共交通機関はあまり信用できないのでどうしても必要な時しか使わず、困ったらすぐ人に頼ればトラブルは少なくなることを学びました。
ローマでは、機械に頼らずアナログライフを心がけると、なかなか快適に暮らせます。
暮らしの不便さにもすっかり慣れ、迷路のような道もほとんど覚え、イライラすることもほとんどなくなりました。
すると、ローマがなかなか快適な街に思えてきたのです。



まず、何しろ食べ物がおいしい。
近くの市場で買える新鮮な野菜や果物が非常に新鮮で安い。
肉屋さんで注文してから切ってくれる、日本では見たことの無い程の厚切り肉のステーキは、食べたことのない食感と旨味。
魚屋さんの巨大なサーモンやマグロの厚切りや、ムール貝等の貝類もすばらしいおいしさです。
ぶどうはあまりのおいしさと安さで、毎日食べてしまいます。

写真は、近所のコジマート広場の朝市の様子です。



ワインは日本と比べると異常な安さの上、おいしく悪酔いしにくいので、そんなに飲むほうではなかったのですが、すっかり大好きになってしまいました。
ビールも安価な上、ヨーロッパ中の軽くて美味しいビールが揃っていて、たくさん飲んでしまいます。
やはり現地で飲むお酒は格別な美味しさです。



このような暮らしは、東京の暮らしと比べると対局にあります。
東京ではコンビニやスーパーがいたるところにあり、ありとあらゆるものがすぐ買えます。
しかし、市場や個人商店の肉屋・魚屋・八百屋がほとんど無くなっているため、工場での大量生産品などは容易に手に入りますが、
極めて新鮮な食材や、人の手でその場で作った出来立ての食料等を手に入れるのは非常に難しくなっています。
日常的に食事をする場所も、チェーン店ばかりで定食屋等は減り続けています。
また、東京の家の中は、便利さと電化製品であふれていますが、素敵な照明やアートや家具はめったに見られません。

どうしようもなく不便だと思っていた街でしたが、だんだんローマの暮らしのほうが、人間本来の暮らしのような気がしてきました。
何か「生きてる」という実感のようなものが、非常に強いのです。

写真はシスト橋の遠景。橋の向こうにバチカンが見えます。


実際ローマの人々は、100年前の暮らしとそう変わらない暮らしをしているように見えます。
毎日街を歩き回って、近所の行きつけのカフェで立ち話をし、いつもの市場でたわいのない話をしながら買い物をし、
家で家族とご飯を食べて、広場で深夜までビール一杯で友人たちと立ち話をしています。
特に近所のトリルッサ広場の週末は、日が暮れるとわらわらと人が集まり出し、数百人の地元の若者が朝までわいわいやっています。
何か特別なイベントでもあるのかと思っていたら、毎週末同じです。
経済的には苦しい人も多いのかもしれないし、犯罪も多いようですが、みんな人生がやたら楽しそうです。

数百年前の街が残されているだけでなく、街も広場も交通機関もなかなか造り直せないためか、人々の気質が変わらないためか、数百年前の"生活"も残されている様です。

私は仕事柄、どのような街や家をつくれば、多くの人が幸せに暮らすことができるのか考える機会が多いのですが、
どうやら、多くの人が幸せに暮らせる方法の一つは、ここローマの暮らしにありました。

写真はシスト橋から見たトリルッサ広場。トラステヴェレ地区の入口。


ハイテクや便利さを追求すると人は快適に暮らすことはできますが、多くの大都市では人や地域のつながりは薄れがちです。
一方で人間古来の暮らし方に近づくと、家族や友人や地域とのつながりや関係は密接になり、人は幸せに暮らせるようです。
当たり前のことではありますが。

東京とローマの生活のどちらが良いのかは一長一短で選べませんが、多くの人にとって日々楽しく暮らすには、ローマのほうが向いているように思えます。
イタリア人から見ると、ドイツやスイス、日本人などはしかめっ面であくせく暮らしているようにみえるでしょう。
一方で、安全で快適な暮らしは圧倒的に東京にあります。


滞在中、ローマを拠点にヨーロッパ各地に繰り返し旅に出ていたのですが、ローマに帰ってきた際には、大して長く住んでもいないのに郷愁感を非常に強く感じました。
市内に入って遺跡が見えてきたり、家のそばのシスト橋に差しかかると、「ああローマに帰って来た・・・」という強烈な感慨を持ってしまうのです。
デコボコ道を走るバスのあまりの振動すらも、何か懐かしい、なくてはならないもののように感じてしまうのが不思議です。
世界中の各都市と比べても、他のどこにもない個性を持つ都市のためか、「私の街」感が非常に強くなってしまうようです。
ヨーロッパの他国からローマに帰ると、スリへの警戒度を最高レベルに上げなければならないのがタマにキズですが・・・。

不便でも何でも、ローマは永遠に変わらずにいてほしいものです・・・。




 

comments

管理者の承認待ちコメントです。

  • -
  • 2022/12/05 10:18 PM
   

trackback

pagetop