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森の火葬場−1

建築とランドスケープデザインの融合の最高傑作の姿を見てきました。
20世紀以降の建造物で始めて世界遺産に登録された、スウェーデン出身の建築家、グンナール・アスプルンド設計の「森の火葬場」です。
世界遺産という評判に違わぬ、驚異的な名作でした。


 

「森の火葬場」は、ストックホルム中心部から地下鉄で20分ほどの駅から、歩いてすぐです。
交通量の多い道路から入口へと曲がると、広大なランドスケープが広がります。



アプローチの途中には、石の壁から水の染み出る泉があります。

古今東西、聖地には必ず湧き水や滝、水盤があります。水の出る場所が古来聖域とされてきたのです。
日本の神社やお寺にも必ず清める水や蓮池等の水があります。



遠くに見える十字架を目指して延々と坂道を上るアプローチです。
左手の塀と右手は芝生の丘に囲まれて十字架以外は目に入りません。
5分くらいは坂道を上るのですが、上る時間が何か静謐な感情を呼び起こします。

なだらかな芝生の丘をめぐる広大なランドスケープですが、よく見ると乱張りの石畳も遠くに見える十字架も巨大で、
全てが通常の寸法を超えたスケールで風景全体ができているため、環境全体に特別に荘厳なイメージが生まれています。
巨大な大聖堂のように、人智を超えた領域を感じさせます。
日本で自然の中を歩く、お寺の参道の階段にもよく似た体験です。



真っすぐな上り坂を歩き続けると、
遠くに見えていた小さな十字架の大きさが次第に明らかになります。
礼拝堂も見えてきました。



あまりにも巨大な十字架。
無垢の巨大な石を積み上げて作られているようです。



7〜8mはあるでしょうか。人の大きさと比べると、十字架の大きさがよくわかります。



この芝生広場の平面は角の丸められた長方形で、塀となだらかな丘と樹木で囲い込まれているため、ふんわりと優しく囲まれたようなすり鉢状の大きな空間となっています。



参道沿いの塀の向こう側は、もう一本の参道沿いに墓地になっています。
塀で囲い込まれ、また小さな壁でいくつもの部屋に分かれるような屋外の部屋のような空間です。



さらに坂を上ると、森の墓地全体の中心施設、礼拝堂と火葬場が見えてきます。



火葬場の前の巨大なポーチ空間が、墓地全体のシンボル的な施設となっています。
高さ10m近くはあろうかという、大きなポーチです。



ポーチの中央のトップライト下には、スウェーデンを代表する彫刻家カール・ミレスの彫刻。



ポーチ自体に、一角に祭壇はあり車寄せとしても機能しますが、ほとんど機能は無く、屋外のエントランス空間のようなものです。
しかしこの大きなポーチ空間と、ここから眺めるランドスケープが広大な敷地全体の中心的な空間となり、施設全体のイメージを決定してきます。
ランドスケープデザインでよく見かける、パーゴラや東屋を巨大化したような、非常に珍しい空間です。




ポーチの脇には周囲に柱のように樹木が並べられた、水盤の庭があります。



ポーチから大きな建物の中に入ると、主礼拝堂です。



主礼拝堂の内部は、素朴な方形の空間に片側から光が降り注ぎます。
大きな丸柱で梁が支えられ、奥の壁の隅と天井が丸められているため、包み込まれるような包容力のある優しい印象の空間となっています。
これは、室内・室外の差はあっても参道の塀と芝生の丘で囲い込まれた広大な空間と同じような質の空間です。
死者と残された者をいたわるようにやさしく包み込むイメージが、内外問わず墓地全体に通底しています。



奥の死者を囲む礼拝空間は、全く窓が取られずうっそうと暗く、奥に行くにつれてスロープを下り、
地中に沈み込んでいくようなイメージです。

また、天井や壁面ばかりでなく周囲の腰壁や床の石畳も角が取られ、死者と家族をやわらかく包み込むような求心的なプランニングとなっています。
腰壁と祭壇にはろうそくが灯り、ぐるりと火にも囲まれています。



入口側を振り返ると、格子越しに光が溢れます。
光に導かれて日常の世界に戻るように促されるかのような空間です。

たまたま見学時に実際に葬儀が行われていたのですが、なんと賑やかなレゲエのリズムが鳴り響いていました。
アフリカ系の人々でしょうか。
楽しいリズムの中で、礼拝堂の中心には死者が祀られ、その周りで家族が別れを惜しんでいました・・・。
様々な死者の弔い方があるのだな・・・と驚かされました。



主礼拝堂から再びポーチに出てくると、ポーチ越しに広大なランドスケープが望めます。



ポーチから丘を望むと、手前には鏡のような蓮池があり、遠くには丘の上に木がかためて植えられています。
その間には屋外の祭壇が設けられ、ポーチから丘の上まで、見えない軸線が真っすぐに通っています。



あまりにも空気が澄んでいるせいか、空の青さも格別です。
また、常に太陽高度が低いため、夕暮れのような紫色の雲の色がずっと続き、非常に幻想的です。
どこを切り取っても、あまりにも美しい写真になります。



大きく水を迂回して蛇行する道をぐるりと回って屋外の祭壇に至ります。



さらに回り込んで、丘の頂上に上ります。



天上界に上って行くかのような、空に向かうなだらかなスロープ。



丘の頂上からは、礼拝堂と周囲の墓地全体が見渡せます。
ここでも木が柱のように均等に並べられ、育った枝が覆いかぶさり、屋外の礼拝堂のようになっています。



丘の上からは、遥か遠くにぽつんと歩く人が見えます。
火葬場の煙突からは煙が・・・。



この森の墓地では、「歩く」ということ自体に大きな意味が感じられます。
広大な美しいランドスケープの中を真っすぐにいつまでも「歩く」ことで、
あの世への道筋を感じ
徐々に死者との別れを実感し
その後は死者にまた会いに来る道行と感じられます。



礼拝堂へと戻ります。どちらを見渡しても美しい風景です。



あまりにも美しく静謐な屋外空間。
故人に思いを巡らせたり、考え事をすることを促されるような道行きです。



こちらは主礼拝堂の脇の副礼拝堂です。
ここでも前庭が囲い込まれる空間となっています。



屋外の大きく囲われた空間から小さな囲い空間に入り、それから室内に入るという体験が繰り返されます。



副礼拝堂の脇の入口からは、中庭に入れます。



中庭には心温まるような、のどかなガーデンが作られています。



中庭から副礼拝堂前の待合いに入ると、ここも木の質感に囲まれた、あたたかく包み込まれるようなやわらかい空間です。
木の壁がめくれてベンチにになっています。



木の扉を開けると礼拝堂です。取手も木でやわらかく作られ、扉脇には手を清める水場もあります。



副礼拝堂の内部です。
片側から光の差し込む非対称の空間は、主礼拝堂を半分に切り取ったようなサイズで、親密な雰囲気です。



このような美しい環境が、人間の手によって建物もランドスケープも含め環境全体が構想され、実現されたということに驚きます。
元々あった美しい自然環境の中に建物を作って全体が素晴らしい空間となった例は世界各地にたくさんありますが、ランドスケープも含め構想して理想的な環境を築いくことができたケースは、非常に珍しいのです。
建築とランドスケープの調和を本当に実現すると、これほどの環境全体の質の高さと、それに伴う「感動」を呼び起こすことができるということに驚きました。
特に墓地・火葬場として理想的な環境を築いているため、ここでは死者の尊厳が高められ、残された者は環境の美しさに慰められるという、環境デザインの最高の目的を果たしています。



「森の墓地」は、20世紀につくられた最高の「空間」の一つであると断言できます。
建築自体はあまりにもシンプルながらも、ランドスケープを含めた環境全体として、世界最高のクオリティを持つのです。

次回は周辺部を見ていきます。


 

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